このレポートは、かたつむりNo.286[2006(平成18)6.11(Sun.)]に掲載されました

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滑る地面
運営委員  藤 本 俊 二
 
 本年度の年間予定表では今年の夏季活動は群馬県神流町に行くことになっています。 神流町を流れている神流川流域ではかつて、地すべりと呼ばれる災害が発生していました。 地すべりは地質と大きく関わりがあります。 神流川の詳しい地質については夏季活動で勉強して頂くことにして、 ここでは地すべりとはどのようなものなのかについて少しだけご紹介したいと思います。
 皆さんは「地すべり」という言葉を聞いた事がありますでしょうか? 山崩れとはどのように違うのでしょうか。
 地すべりとは、山地などの広い斜面全体がその上に乗っているもの(例えば建物など) を乗せたままゆっくりとズルズルと斜面の下に滑っていく現象の事を言います。 地すべりは斜面の傾斜角が30°以下の斜面で発生することが多く、限られた地域、 地質状況を持っている地域にだけに起こります。 一方、山崩れとは斜面の角度が30〜70°と、急な傾斜地が原型を壊しながら突発的に崩れる現象で 山地であれば地域や地質状況に関係なくどこでも発生する可能性を持っています。
 では、地すべり発生のしくみは一体どうなっているでしょうか。
図地すべりの起こり方 (地面が動く!由比の地すべり・由比地すべり管理センターパンフレットより引用)
 地すべり起こしている地盤を地すべりブロックといいます。 そして、その下に地すべりを起こしても動かない基岩とよばれる層があります。 この地すべりブロックと基岩との境をすべり面と言います。 大雨などにより地中に水がしみ込むと(これを地下水という)、この水はすべり面に溜まり、 このすべり面が次第に粘土になっていきヌルヌルとすべることで地すべりが発生します。
 地すべりは地質の特徴から次のような3つに大きく分類されています。
@第三紀層地すべり
 第三紀の時代に堆積した水を含むと粘土化しやすい軟岩地帯で発生する地すべり。 緩やかに動くのが特徴で、東北・北陸・山陰・北九州などの日本海側で発生する地すべりの大部分が相当する。 具体例として松之山地すべり(新潟県東頸郡松之山町)や茶臼山地すべり(長野市篠ノ井町)などがあります。
A破砕帯地すべり
 地殻の運動で岩石がひずみを受け、ブロック化・粘土化しやすくなっている地帯で発生する地すべり。 糸魚川‐静岡構造線や中央構造線沿い、三波川変成帯、領家変成帯などで発生する。 具体例としては有田川地すべり(和歌山県有田郡有田町)、 由比地すべり(静岡県庵原郡由比町)や今回訪れる神流川流域(群馬県神流町)などがあります。
B温泉地すべり
 地盤が温泉の噴気や熱水によって変質を受けて、粘土化したところで発生する地すべり。 火山性地すべりともいわれています。 具体例として早雲山地すべり(神奈川県足柄下郡箱根町)などがあります。
 日本では色々な場所で地すべりが起きていますが、 防止策の技術では世界でも最高水準に達しています。中でも静岡県庵原郡由比町では年間約1億円かけて 粘土を作る要因の一つである雨水などが地下に入らないようなシステムを作りました。 このお話は長くなるので、また別の機会にお話したいと思います。
 また、陸上に限らず海底の色々な場所でも地すべりが発生しており、 相模湾三崎沖では大きな活断層とその近くに地すべりの痕跡が確認されているほか、 熱海沖では海底遺跡にもみえる面白い地形をしている場所があり、これが地すべりによってできた地形なのか、 海底遺跡の一種であるのか、研究者の間で熱く議論が交わされています。
 海底も含め、水の底(水底)で発生した地すべりによって生じた異常堆積構造のことをスランプ構造といい、 日本では秩父(埼玉県)、三浦(神奈川県)などで観察することができます。
■秩父(埼玉県)のスランプ構造
 地すべりの起こった場所は地形図からある程度判定することができます。 地形図上では、地すべりの発生した場所は等高線が不規則に配列しており、 緊密な部分と膨張部分が不規則に配列しています。 そして、山腹斜面に馬蹄形状の急な崖(滑落崖)を生じ、 この崖に囲まれて台地状の緩い斜面が形成されています。 また、地すべりの末端部は末端隆起を生じているため、前面が急な斜面となり、等高線が緊密になります。
 また、次のような現象が見られるときは地すべり発生の前兆ですので、気をつけましょう。

  1. 崖から石が落ちてくる
  2. 山の木が傾いたり、斜面に亀裂が走ったりする。
  3. 湧き水の量が急激に増えた。
  4. 今までかれたことのない湧き水が止まってしまった。
  5. いつも澄んでいる沢や井戸の水が濁ってきた。
  6. 地鳴りの音が聞こえてきた。
  7. 雨が降り続いているのに川の水位が急に下がった。
  8. 川が濁って、水位が増え、流木が混ざり始めた。

 地すべりについて少しはお分かりいただけたでしょうか。 夏季活動では普段経験できない経験や大人になっても忘れられないような経験を体験することができます。 ぜひとも皆さん、素晴らしい夏季活動、そして素晴らしい夏休みをお過ごしください。

参考図書
谷口敏雄(監修)・藤原明敏(著)(1987):地すべり調査と解析―実例に基づく調査・解析法―.理工図書. (社)全国林業改良普協会(編):地面が動く!由比の地すべり. 由比地すべり管理センター

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