このレポートは、かたつむりNo.444[2017(平成29)09.10(Sun.)]に掲載されました

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チョウ(蝶)のお話
運営委員  伊原 泰信
 

オオムラサキの羽化(自宅にて)

日本の国蝶 オオムラサキの標本(左がオス、右がメス)
※写真を掲載できないため、インターネットで「ナショナルジオグラフィック 最古の飛翔昆虫化石」で検索してご覧ください。
現時点で、最古の飛翔昆虫化石、カゲロウの祖先種と推測されています。今から3 億年前の石炭紀のものです。 ナショナルジオグラフィックより
 かたつむりの原稿は久々になります。これから身近な昆虫である蝶(チョウ)の話をします。 皆さんも昆虫に関心のある人も多いと思いますし、今年の夏季活動では、水生昆虫を観察しましたね、 楽しかったですか。おそらく初めての経験だったでしょう。私もあのような本格的な観察は初めてでした。 水のきれい度を示す昆虫で、指標生物になっています。
 蝶の話の前に、なぜ私が蝶に興味を持ったかを紹介します。 小学生までさかのぼりますが、当時は夏休みの自由研究といえば、昆虫採集の標本作りが多かったです。 標本といっても、ただ並べるだけではなく、背景にその昆虫がいる環境の絵をクレヨンで描いていました。
カブトムシやカナブンは樹液に集まる様子を、チョウやハチ、カミキリなどは花に来る様子を描きました。 標本ですから、博物館で見かけるように、カブトムシなどの甲虫類は足の形を整え、 樹木に張り付いているようにしたり、チョウやトンボ、セミなどの羽根は展翅版(てんしばん)できれいにしたり、 止まっている場合は折りたたんでというように工夫しました。皆さんはどうでしょう。 捕まえてもそのままにしていませんか。最近は捕まえても、自然環境保護のために、逃がしてしまうようです。 街中ではチョウを探すのも大変になりましたが、 学校では理科の時間にモンシロチョウやアゲハチョウを卵や幼虫から飼育しませんでしたか?
 私はこの頃より虫大好きが始まりました。 中学生からは、恩師の須田孫七先生(検索してみてください)ご指導でより専門的な知識を得て、 いわゆる蝶屋(チョウの収集家)となりました。 網を使った採集が中心でしたが、特に卵や幼虫から飼育することにも取り組んできました。 高校時代まではよく山野を飛び回っていましたが、大人になると仕事で忙しくなり、 収集家ではなく日常の身近なチョウの生態観察や飼育を中心に写真の記録などをやってきています。 現在も中学校時代に採集した標本が残っています。
 さて、皆さんは、チョウを含めた昆虫の歴史をどれくらい知っているでしょうか。 地球上に存在する動物の約80%以上が昆虫で占められています。その数は、実に85万種以上といわれています。 そんな地球上のどこにでもいる昆虫、そ の起源は古く今から約4億8千万年前の古生代「オルビドス紀」であることがDNAの解析からわかってきています。 最初に出現したのは、シンプルな仕組みを持つ「トビムシ」。 その体長はわずか3mmで、世界中のどこにでも生息しています。 夏季活動で観察した水生昆虫の祖先もこの時代までさかのぼります。
 つまりこの時期に現れるトンボやゴキブリ、カゲロウなどの化石が最古の化石といえます。 チョウ類は、それから約2億年たった恐竜の時代である中生代「ジュラ紀」後半から「白亜紀」前半にかけて 鱗翅目(チョウの分類名)と思われる化石が見つかり、このころよりチョウの祖先は誕生したと考えられています。 これはちょうど植物(被子植物)が花を誕生させた頃と同じ時期です。 昆虫と花は大変密接な関係にありますから、当たり前なのかもしれません。 発見された数少ない化石の中から、チョウ類はかなり昔からその姿を変えていないことが分かっています。 現在確認されている種類は、新世人類が誕生したときには既に出そろっていたと思われています。 現在世界では17,600種ほど、日本では250種類ほど、藤沢市内では50種類前後が生息しています。
 では、皆さんが知っているチョウは何種類ぐらいですか?モンシロチョウ、スジグロチョウ、キチョウ、 アゲハ、クロアゲハ、ヤマトシジミ、キタテハ、ゴマダラチョウ、アサギマダラ、ジャノメチョウ・・・?
名前は知らなくても、きっと数多くのチョウを見かけているでしょう。 一番多く目にするのは、おそらくモンシロチョウのような白いチョウや大型のアゲハチョウのなかまでしょうか。 私も小学生の頃からアゲハチョウ科が好きでした。とにかく大型の種類が多く、卵や幼虫からの飼育も比較的に簡単です。 今でも自宅の窓を開ければ食草(カラタチ)に幼虫を見つけることができます。 自宅を訪れるアゲハチョウ科はアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、モンキアゲハ、ナガサキアゲハ、キアゲハ、 アオスジアゲハでいずれも成虫、幼虫ともです。チョウの好きな花や食草があれば飛来してきます。

藤沢市内で見られるアゲハチョウ科(個人標本より)
ナガサキアゲハは、市内では個体数が少なく自宅で偶然幼虫2 匹を発見後、飼育によりオス・メス1頭ずつ羽化したものです。
下の写真はすべて標本写真の終齢幼虫です。似ているようで似ていませんね。
※写真を掲載できないため、インターネットで『蝶の名前 + 「終齢幼虫」』で検索してご覧ください。
幼虫からチョウの名前
はわかるでしょうか?
(写真は蝶の図巻より)

答えは前の標本写真と同じ配置にしてあります。それぞれの食草は、アゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、モンキアゲハ、 ナガサキアゲハはミカン科(カラタチ、サンショウ、カラスザンショウ、ナツミカン、ダイダイ、コクサギなど)、 キアゲハはセリ科(パセリ、ニンジン、セロリなど)、アオスジアゲハはクスノキ科(クスノキ、タブノキ、ゲッケイジュなど)です。 ミカン科やセリ科の植物は鉢(プランター)で育てられるので、庭でなくてもベランダでもアゲハたちは産卵に訪れます。 試しに植えてチョウを呼び込んでください。 もちろん、幼虫が食べなくてもセリ科はそのまま野菜として、ミカン科は実ができれば皆さんが食べることもできますね。
 さて、チョウが好む草花を紹介しておきます。花の好みは色によるものもあり、アゲハチョウ科、 タテハチョウ科は赤や紫の花を、シロチョウ科、シジミチョウ科、セセリチョウ科は白や黄の花を好む傾向にあります。 様々な色の花を用意して、どれによく寄ってくるか観察してみるのも面白いでしょう。

ブッドレア
 海外ではバタフライブッシュとも呼ばれ、チョウに圧倒的に人気の花。
花期も初夏から秋までと長く、いろんなチョウが飛び交います。草のように見えますが低木。
差し芽で増やせるため、お友だちの家の庭にあったら一枝いただいては…?

バーベナボナリエンシス(三尺バーベナ)
タネで増えますが、いったん定着すると宿根草になります。 背の高い草の先に小さい紫の花の房ができます。 花期が長いので真夏や秋の花の少ない時期に特に重宝します。

キャットミント
初夏から晩秋まで薄い紫色の花が咲き続ける宿根草。 チョウやハチが集まります。一株で大きく広がります。
写真は掲載しませんが、このほかには、ランタナ、ジニア(百日草)、ヒマワリ、マリーゴールド、ユリオプスデイジー、 エリゲロン、ポーチュラカ、ハナニラ、カクトラノオ、フジバカマ、アベリア、ツツジ、ハギ、リョウブ、カクレミノなどがあります。 今回はこれで終わりますが、チョウは捕まえるより飛来してもらう方が楽しいと思います。食草を植えるのもいいでしょう。 そのお話は、また・・・?




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