このレポートは、かたつむりNo.232[2002(平成14)9.8(Sun.)]に掲載されました

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なにをどう見ますか?
運営委員 道 上   定
 
 8月の夏季宿泊活動では、アサヒビール神奈川工場となりにある物産館・ あしがらの里で「足柄茶」葉と「いなごの佃煮」をおみやげに買って帰りました。
 足柄茶のアルミ缶飲料はJA鵠沼にもあるのですが、茶葉はおいていないのです。 いなごの佃煮は秦野、伊勢原で山の帰りに買ったりします。

 まえにE.S.モース博士を紹介しました。 江ノ島ではシャミセンガイがとれると聞いて、 自分の研究している生物学のために来日したモース博士なのですが、日記 『日本その日その日』の中に、埼玉県川越での朝食でイナゴを「何匹か食ってみたが、 こえびに似た味で、なかなかうまかった。 バッタを副食物として食うのはこの地方ではふつうのことで…」、 「それを醤油と砂糖と少量の水とで、水気がなくなってしまうまで煮る」 と書き残しています。

 この博士ときたら何でもコレクション。そのほとんどをアメリカに持ち帰り・ ピーボディ博物館に収めてありますが、その種類は日本陶器、大工道具、おもちゃ、 薬屋などの看板。楽器、信仰道具、刀剣類などの武具はよしとして消防用具まで! 鍋、釜、飯ひつなどの台所用具のいっさいがっさいはもちろんですが、かつおぶし、 お酒の入ったままの酒ビン、缶にはいった海苔、ビン入りのこんぺい糖、 そして「いなごの佃煮」も集めていたんです。そう、120年前のことです!
 日本昆虫学会・Y.Kさんによれば、 このイナゴはどれもコバネイナゴという種類だったようです。

 もともと生物学を専門にしていた博士ですが、生物の多様性を説明するには「ちがい」 を確認すること。分類学を知っていなければはじまらない。 で、分類していくうちに一つ一つの位置関係に気づく。進化論が分かってくる、 と言うわけだ。 時間的変化を説明しようとすれば「あいだ」を埋める資料が必要になる。
 もっともモース博士は進化論を補強するために実地研究していたわけではないのです。 しかし、いろいろ並べてみるとどうしても進化の過程(あるいは退化の過程) が見えてくる…。

 さて、夏季活動の最終日には「夕日の滝」を見ました。 30メートルあるかないかの滝なのですが、 白いたくさんの糸となって滝壷へ流れ込んでいます。 ところが、お握りを食べていた団員のひとりがこう言いました。
「あれ?つぶつぶで落ちてきてるよ。」というのです。
 素晴らしい、と思いました。
 そうなんです。ひとすじの流れとなって見えるのですが、 じつは水のつぶつぶがとぎれとぎれに「ひとまとまり」となって落ちているのです。
 写真が2枚ありますが、左は1/2000秒、 右は1/250秒のシャッター速度で撮影しました。 見てのとおり「つぶつぶ」と「糸」のちがいです。
 目から入った光の刺激はしばらくのあいだ残り、やがて消えていきます。 皮膚をつねったあとの痛み(圧覚)、舌の上に残る苦味など、「残感覚」といいますが、 視覚のばあいを「残像」といっています。よく聞きますよね。ついでですが、 このことばを拝借して聴覚の場合の残感覚を「音響性残像」といったりします。
 で、陽性残像といわれる原像そのままが残りやがて消えていく…。 しかもその像が時間とともに落下する。 滝という物理現象を感覚で「観察」していたのです。
 この残像現象を利用して映画ができたのです。

 滝の水がツブツブか、それとも糸に見えるか。視力の問題ですし、訓練の問題です。 視野上の位置を区別する方向視力、目からの距離を区別する奥行き視力がありますが、 年をとるとにぶってきます。

 それにしてもマリナーズのイチロー選手、打率3割3分3厘で第3位(9月2日現在) です。時速140キロの球が「止まって見えるのですよ」と語っています。 動体視力というのですが、よほど訓練しないと無理なのです。
 残像現象の説明によく似たものに「かみなり」放電・落雷がありますが、 これは別の機会にしましょう。

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