このレポートは、かたつむりNo.244[2003(平成15)6.8(Sun.)]に掲載されました

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抗菌・殺菌、ぞうきん・ふきん
運営委員 道 上   定
 
 気温も上がり、湿度も上がりはじめた。いよいよ食中毒の季節を迎えます。 といっても例えば「野草を食べる会」で話題になるオオバギボウシと間違えて バイケイソウを食べておう吐・血圧低下をきたしたり (それにしても4月の「雑草を食べる会」が流れてテンプラが味わえなくてほんとに残念! (まだ言ってる!)でした)、フグや毒キノコなどによる自然毒とか、 化学物質による食中毒ではなく、細菌類による食中毒が多くなります。
 食中毒の80 %以上は細菌性のものですが、 赤痢やチフスなどの経口性の伝染病とはちがって菌の数が少なければ、 まあ経験的に問題とはならないのですが、食べ物の中で増えた場合、 感染型となったり、細菌からの毒素が出たとき毒素型の食中毒として発病するのです。 去年(平成14年)の神奈川県内での食中毒は61件1286人でした。 そして夏場(高温多湿)での原因はだんぜん感染型である腸炎ビブリオによるものです。

 P・ビアスの『悪魔の辞典』ふうに言えぱ、 食中毒は細菌にとって生活圏の拡大の好機到来というわけです。 ヒトさまも生き物だけど細菌も生き物。なんとかして生き延びよう、 あわよくぱ子孫を増やそうとがんばっています。 「生きる」というのは生き物にとってほかの生き物のいのちをいただく」ことでもありますから、 相手の出方によって動きがちがってきます。 まな板の鯉はどうしたことか横に寝かせると動きが鈍くなります。 腸炎食中毒予防の三原則は(1)菌をつけない(2)ふやさない(3)殺菌する、ことです。
 そこで細菌を押さえ込む言い方には滅菌、殺菌、抗菌、制菌、静菌、消毒、除菌、防腐、 防菌防、サニタイズなどさまざま。 もちろんそれぞれに意味を持たせているのですが、じつは日本薬局方では滅菌、殺菌、 消毒が定義されているだけ。 薬事法では抗菌についてニュアンスのちがう抗生物質としての定義があるのみです。
 ここでは抗菌について話題としたいのですが、平成11年通商産業省が 「新機能加工製品に関する自主的ルール作りの取組みに向けてのガイドライン」を出したのですが、 この中で抗菌とは「当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」と定義しています。 ひところはやりましたよね「抗菌なんとか」。 繊維では靴下・下着・ユニフォーム・ワイシャツ家電製品ではかみそり・クーラーのフィルター・ 掃除機・洗濯機、建材ではビニル床材・壁紙、住宅設備機器では便座・便器・洗面台・浄水器、 台所用品ではほうちょう・まな板・スポンジ・コップ、文具ではボールペン・シャープペン・ 筆箱、その他スリッパ・キィーボード・キャッシュカード…。 いまでは抗菌対策が落ち着いてきました。

 抗菌剤には無機系と有機系そして天然有機系がありますが、 抗菌作用を持続させるために焼成したり練り込んだりします。 洗面台や便器などは焼き物として表面を抗菌剤で焼成しますし、 まな板や食品ラップやキッチンカウンターは全体に練り込みます。 天然有機系抗菌剤は歯ブラシやおもちゃに使います。
 ふつう天然木のまな板では包丁の傷がつくとそこに細菌が繁殖し、こまったものですが、 プラスティクのまな板なら包丁で傷が付くとそこから新たに抗菌の接触面が出てくるのですから、 かえって細菌抑制に効果があるのです。 抗菌製品技術協議会のF事務局長は製品対象を消費者の理解を得て広げていきたい、 と話してくれましたが、経済産業省でも抗菌技術は国際的にも日本がリードしているので、 実績を積んで標準化を促進したいと語っています。

おじいちゃんやお父さんがご愛用の「仁丹(じんたん)」。 あの銀色はほんとに金属の銀です。細菌の抑制作用があります。 98年前、つまり明治38年に仁丹が発売されたときはベンガラでコーティングされていました。 ベンガラは三2酸化鉄で、最も古い顔料の一つです。 天然に産する鉄酸化物のひとつである赤鉄鉱は古くから弁柄(べんがら)と称し、 赤色えのぐとして使用されていました。 昭和の初期に至り、硫酸鉄を原料として製するようになり、 昭和32年に食品添加物として指定されました。 森下仁丹(株)の宣伝都・Nさんによりますと、発売当時の赤大粒仁丹では、 丸剤の携帯性・保存性を高めるために、ベンガラによるコーティングを発案したといいます。 岡山県成羽町はベンガラ格子で有名ですが、 町内に銅鉱山があって硫化鉄鉱も出るのでそれを使ったようです。 で、いまの銀粒仁丹になったのは昭和4年のことです。 戦前は今とは比べものにならないくらい貧しかったのですから、 風邪や食あたりといった病気でも命を落とす人が少なくありませんでした。 そこで台湾で見た丸剤のように万病に効果があって飲みやすく、 しかも携帯・保存に便利な薬をということで創業者・森下博が 現千棄大学の三輪・井上博士に協力を求めて処方を完成させたといいます。

 ところで、抗菌・殺菌でまわりを無菌にしてしまったらどうなるか。 人にある常在菌は1.2kgにもおよびます。
 O −157、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌など、 いろんな細菌や微生物などがバランスよく生きている、あるいは生かされている。 それを人間本位に不用意に手直ししようとしたら思わぬしっぺ返しがまっている というのが私の考えです。
 このあいだの日曜日、大庭遊水池の泥沼の中にへその上まで浸かりながら A市R小学校6年の2人がさかなを追いかけていました。 泥沼から上がると素足のうえ、まあ汚いこと!お母さんにしかられるよ? 「ううん、だいじょうぶ。知ってるから」には参った。
 こんな母さんにかかると食中毒もタブンないはず、です。



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