このレポートは、かたつむりNo.268[2005(平成17)3.20(Sun.)]に掲載されました

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ダサイのごんのそつ
運営委員 道 上   定
 
 「太宰の権帥」と書きます。今から11OO年ほど前つまり平安のころ、 北九州の太宰府という西海道を統率する役所の、長官の役職名です。
 東風吹かば 匂ひおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ
といえぱ菅原道真の作なのですが、早くから学才を認められ、詩人でもあり、 政治家にもなった人でもあるのです。宇多・醍醐天皇の信任厚く右大臣になるのでしたが、 時の左大臣藤原時平のねたみによって左遷。 現役の右大臣だった菅原さんは「太宰の権の帥」として流刑に処せられたのです。 もっともこの役職は名ばかりで、政務には関わらせてもらえなかったと言います。 役立たず、と言うわけです。
 そして2年後の2月、現地で没したのですが、その後の都では御殿に雷が落ちたり、 事件が相次ぎ、時平も若死したり、 その親族もつぎつぎと早死する始末・朝廷では崇りと恐れ現人神として安楽寺 (現在の太宰府天満宮)に葬られました。
 受験シーズンともなると願掛けの人達でにぎわう天神さまですが、学問の神様・菅原道真公は……。

 話は変わって「新林公園・山の散策コ一ス」の樹木名解説プレートのこと。
「ゴンズイ ミツバウツギ科
 ナマズの仲間に肉がまずく、毒をもつゴンズイという魚がいて その魚と同じくらい使いみちのない木なのでこの名前がつきました。」
 ビニル被覆鉄線によってくくり着けられたプレートにこう書いてある。
 ひどすぎませんか。ひどいですよ。おそらくこの解説は戦前の昭和15年9月、北隆館出版の 『牧野日本植物図鑑改訂版』を引き写したのだと思います。
 この図鑑には「ごんずゐ」の解説の後半に「和名ごんずゐハ権萃ト書スル事アレドモ当テ字ナリ、 予ハ之ヲ役立タヌ意ヲ表セシ名ナリト考フ、我邦ニテ往時此木二樗ノ漢名ヲ充ツ(実ハ誤用ナリシモ)、 樗(実ハ神樹即チにはうるしナリ)ハ有用ノ材二非ズ、 漁夫ノ顧ミザル小魚二ごんずゐアり共役立タヌ魚ノ名ヲ役立タヌ木ノ樗卜為セシ本植物二適用セシモノナラン。」 とありますから、何の配慮もなしに引用したのだと思います。
 私は二つ三つ言いたいのです。
 1つ目は魚のゴンズイがそんなにまずく、役立たずなのかどうか。てんぷらはもちろん、 煮ても焼いても美味しいですよ。わざわざゴンズイだけを拾い食いするほどの事はありませんが、 漁師の町ではたまに店先に並ぶ事もあるのです。
 2つ目は樹木のゴンズイが若芽を出すと、和え物・煮物・テンプラにして食べるとおいしいのを知らないか。 これまたゴンズイだけを選り好みして食べるほどのものではないにしても、だ。 5月ころ淡黄緑色の小さい花をつけ、秋には朔果が紅熟し、裂けて黒紫色の種子をむき出します。 その対比が何ともきれいなのです。使い道のない役立たずなの。
 3つ目は植物やっている人なら分かるでしょうが、雑草という植物はないのです。名前がちゃんとあります。 分類した結果の名前です。樹木のゴンズイも同じ。その流れでいいたいのですが、使いみちのない、 役立たずとはなんですか。名前を変えてほしいというのではないのです。 解説があまりにも「共生」の時代にかけ離れているのです。
 さっそくプレートのかけ替えをしてほしい。教育的見地からは本当におかしいと思います。 さて、最初に戻りますが、樹木のゴンズイは権萃と書くのですが、 この「萃」と権帥の「帥」は昔通文字の関係と見なせますから、どうもこちらからきたのではないか、 私はそのように思っています。つまり権帥=権萃と考えるわけです。 どうしても「役に立つ」という言葉を使うとすれぱ・「役を与えられなかった」といっておきましょう。



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