このレポートは、かたつむりNo.275[2005(平成17)9.4(Sun.)]に掲載されました

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体のつくり、体のうごき
運営委員 道 上   定
 
 この秋11月の藤沢市民オペラでは『ツーランドット(プ』ッチー二作曲)が上演されます。 93年11月にも上演しておりますが、 異国情緒たっぷりで昔むかしの人情を思い出させるような筋立てで、分かりやすいのです。
 同じ作曲家による『蝶々夫人』も、まあ同じようなものですが、 タイトルからしてハデなようなひ弱なような感じですが、しかしこれがトンボ夫人だったり、 バッタ夫人ではしっくりしないし、…かと言ってヒゲボソゾウムシ夫人じゃもっといけない気がします。
 その『蝶々夫人』の中で、
  海の向こうでは蝶はみんな、
  人間の手に捕らえられると
  ピンで突き刺されて
  板に止められてしまうのですってね
と、マダムバタフライがうたい、第一幕が閉じるのですが、 もちろん絶対に昆虫採集・標本作りのオペラではありません。
 ところがムシを見つけると涼しい顔して(たぶん)、嬉しい顔してピンで突き刺し、 板にとめてしまう人がいるのです。
 比較解剖学者・養老孟司先生。趣味で小さいときから昆虫採集をしていて、 ついに箱根町に収蔵館を新築されたというのですから、気になるではありませんか。

 その養老先生による「昆虫少年の歩んだ道」と題した講演会があるというので飛びつきました。 7月中旬、会場は新装なった県立青少年センター。
 しかし、講演内容は概念の世界・感性の世界、言葉の世界。 ザ・アップルとアン・アップルの違い。 いっしょくたにするな、みんな違うんだ、ということを延々と話された。
 昆虫については「僕たちの子どもの頃はモノがなくて、 ビンの栓にしているコルクを輪切りにして貼り付け、ハリは裁縫の待ち針を使ったものです。 これが鋳びるんです。箱は引き出しを使いましてねぇ」ぐらいなもの。
 いささかがっかりしました。あのプラスティネーションの展示標本を勧めている人だもの。 「医学部に解剖学教室は古いじゃないの」と、煽る人だもの。
 夕一ヘルアナトミアのオランダ語版を翻訳した『解体新書』の杉田玄自・前野良沢、 『解剖存真図』の南小柿寧一に続く業績を期待している訳で、たのしみにしているのです。 もっと異なった視点から話が聞けるんじゃないかと、期待もしていたし、残念でした。 もっとも、聴衆の生徒から「自分に内包していたものが、排泄されるや汚いものとなるのはどうして?」と、 質問があったのは面白かった。講演者から直接の答えはありませんでしたが。

 それから1週間ほどして、そんな質問を吹き飛ぱすような劇場型の発射がありました。 やれ台風だ、燃料タンクのセンサーの故障だ、原因ははっきりしないがボタンを押してみましょうなどと、 それこそ[運を天に任せて]宇宙に飛び出したシャトルがありました。 約2年半ぷりに飛行を再開したスペースシャトルのディスカバリーです。 7月26日から約2週間にわたる飛行を終えて8月9日運良く無事帰還したのです。 結果が良かっただけで、なんとなくブルー。茅ヶ崎市ゆかりの宇宙飛行士・野口聡一さんが乗り組んでおり、 船外活動の主役でもありましたし、機体のトラブルがいろいろとあって、 とにかく生身のからだが地上に下り立つまで気が気ではありませんでした。
 その野口さんが古武術・甲野善紀さんを尋ねていた、 という新聞記事が夕刊に掲載されておりました(7月30日・朝日)。
 野口さんのシャトルでの船外活動はその動きが素晴らしくスピーディでおどろきましたが、 なるほど甲野さんのムダのない体のさばきが参考になったのでしょう。
 その甲野さん・じつは解剖学者・養老さんとちょうど5年前、90年9月にはじめて会っており、 その2年後から対談などを通して付き合いがあるのです。
 対談集が刊行されていますので読むと面白いと思います。 ついでながら野口さんが進化してどこまで「変人」になれるかが、今後のたのしみです。

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