このレポートは、かたつむりNo.280[2006(平成18)1.8(Sun.)]に掲載されました

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ハテナという生き物
運営委員 道 上   定
 
 去年の秋「動物、それとも植物?へんな生き物」として海洋微生物が、紹介されました。
 筑波大学の先生たちが5年前、和歌山の海岸の海水を顕微鏡で見ていて偶然に見つけました。
 『ハテナ』と名付けられたこの単細胞微生物は、体長30ミクロン(3/100ミリ)。 2本のべん毛を持っており、全体は透明と言えますが、部分的には緑色をしています。 これは特定の緑藻の仲間を細胞内に取り入れたから。 ふつうの単細胞生物では細胞分裂で同じ姿形のものが出来るのですが、ハテナの場合、 葉緑体は片方だけに受け継がれ、片方はまったくの透明のまま。 葉緑体のある方は光合成で生きていくが、ない方は新たに口ができて緑藻を取り込むようになるといいます。
 すると、葉緑体のある方は植物で、ない方は動物?
 そんなに単純ではないようです。植物で光合成を受け持っている葉緑体は、 ずっと大昔にはもともと独立した藻の仲間だったろう、というのがおおかたの専門家の見方です。
 だとすれば、ハテナはなんだ?
 生物の系統樹を見ると、原核生物界、原生生物界、植物界、動物界、菌界と分かれますが、 ハテナは原生生物と藻類のハイブリッド細胞なのでしょうか。今のところ、 葉緑体のなかった生物が藻類を取り込み、共生関係を結んで、 ノリやコンブに進化していく途中の微生物としか言えないようです。 まだこの葉緑体を連想させるような藻類を単独では見つけておりません。 だから分からないことだらけです。

 緑藻類のなかにボルボックスがいます。オオヒゲマワリ目オオヒゲマワリ科の淡水産の藻類です。 だからまたの名をオオヒゲマワリともいいます。漢字で大髭廻り。いかにも動物的ですよね。 事実、べん毛の運動によって水中を遊泳します。 少し前には原生動物べん毛虫類の一員として動物としても扱われていました。
 こんなのがいるとは私は知りませんでした。25年ほど前までは。 ところがその時、「藤沢市総合理科展」があって会場には顕微鏡の下にボルボックスを展示していたのです。 はじめて海野茂先生と高山義則先生に出会いました。
 「ボルボックス?ええ、こうやって動くんです。まるで動物ですよね。」 「藤沢にもいますよ。たんぽにいるんです。……」
と説明してくださった。嬉しそうに増やし方など話してくださる。 私としては動いているのを見るだけでいっぱいなのに。
 余談ですが、こんなやり取りが「藤沢市科学少年団」の結成のきっかけになったのです。
 なんでこんなに面白いことを子供たちが知らないの?もったいない! 先生方がまずおもしろがって子供たちに伝えていく…。これだ、科学少年団の役割は、と思ったのです。
 このボルボックス、単細胞の多数の個体が規則正しく球状の群体を形成し、べん毛で泳ぎ回るのです。
 と、ここまでで、あとは詳しい顧問の海野先生か高山先生に教えていただきなさい。 とにかく見るとびっくりするよ。

 このように世の中にはスパッと割り切れないもの、大分類に収まりきらないもの、 アイマイなものが他にもたくさんあって実に楽しいのです。
 芸術や建築、経営学などに「ニッチ」という用語があります。私の大好きな言葉の一つです。 「視床下部」と同じで、これらの部分を通して私は物事を判断しています。


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