このレポートは、かたつむりNo.295[2007(平成19)2.4(Sun.)]に掲載されました

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ヒトとしていただいた「いのち」
運営委員 道 上   定
 
 賞味期限の切れた牛乳をケーキ作りに使っていた菓子メーカーが苦境に立っています。 賞味期限内であれぱ安心して口にできるものを、すぎてしまうと不安であるし、おいしくないからです。 もちろん売れないし買わないでしょう。安全の幅は取っていても、です。
 なぜか?私たちヒトは生き物由来のものを「食べ物」として生命を維持しているからです。 食べ物を口に入れるという事は異物を体内に取り入れるということです。 長い間の時間をかけて獲得した消化酵素を利用して、自分の肉体としエネルギーとしているのです。
 つい、ヒトの側からながめているのですが、生き物同士は「くう食われる」間柄です。 いろんな生き物がヒトを舞台にして自分の仲間を増やそうとしています。
 おりも折り、宮崎県清武町、日向市そして岡山県高梁市の採卵養鶏場で、 相次いで高病原性鳥インフルエンザが発生、ウイルス検査でH5型と確認されました。 ふつう野生の烏は無症状か軽い症状なのですが、 アヒルやニワトリなどの家禽類がかかると重症化するといいます。 そのなかでも特に大量の死亡被害を出すなど病原性が強いものを 高病原性インフルエンザと言っています。 2004年の山口、大分そして京都府の養鶏場のように1万羽以上という大量死が起きたのも、 このウイルスです。 宮崎県清武町のウイルスは中国大陸のものと同じ系統ではないかと言われており、 日本には野鳥が持ち込んだ可能性が高いといいます。
 鳥インフルエンザは例外的にヒトに感染することもあるのですが、 ヒトからヒトには感染しないとされます。明確に断定できません。 烏インフルエンザが流行している地域では感染者がでており、死亡者も百数十名出ています。
 心配なのはウイルスが変異を起こし、ヒトヘの感染カとヒトからヒトヘの感染力を獲得した時、 ヒトの側にはまだこのウイルスに対する免疫がありませんから爆発的! な流行が深刻に懸念されるのです。
 さいわい今のところ岡山県知事がおっしゃるように 「たまごや鶏肉を食べて人に感染した報告はない」と、 冷静な対応を呼び掛けています。事実私も親子丼をまだ食べていますし、 たまごは毎日いただいています。 だからと言って今後も食べ続けられるか、保証はありません。
http://www.hytem.com/ly/news2004-11.htm
 昭和20年に戦争が終わってまもなく、サラリーマンの月給が3干円くらいだった。 そのころ病気見舞に「滋養をつけてね」と、差し上げて喜ばれたのがたまごでした。 高かった。1個15円程もしたのでせいぜい多くても5か7個。 そのたまごがいまでも1個15円前後で売っています。つまりこの50年間あまり値段がほぼ同じなのです。 だから牛乳同様にたまごは「物価の優等生」と表現されます。
 高度成長期にはマヨネーズなど需要が急増、500羽以上の鶏舎となり、人工飼料も登場しましたし、 立体飼育法と言われる多段式鶏舎、バタリー舎が始まりました。 専業の養鶏農家も現われ、やがて人工照明で1日2回夜・昼がくるようにして1日2個たまごを取るようになりました。 養鶏専業では1万羽が採算分岐点だと言います。5万、10万の鶏舎はざら。何でもコスト。 削れるところは徹底して削る。現在たまごの殻は「これ以上は無理」なところまで薄くなっています。
 つまり養鶏場は鶏卵製造工場で、ニワトリはまるで「たまごを生む機械」となっています。 その飼料もニワトリも外国から来ています。そして鳥インフルエンザが発生すると一網打尽に処分されます。

 このような飼育の現状と処分の事実を、厚生労働相はごぞんじだろうか。 いのちを機械に例えること自体「生命の尊厳」を傷つけることになりませんか。 何度もいいますが、ヒトはほかの生き物のいのちを頂いて人間本位に生きているのです。
 せめて謙虚さは必要だと思います。たまたまヒトとして生まれてきたから、 ヒトとしてあなたは生かされているわけです。それ以上でもそれ以下でもありません。 まもなく鳥インフルエンザウイルスは変異を起こし、おそらくヒトにも活路を見いだすでしょう。 スペインかぜ、アジアかぜ、香港かぜ、ソ連かぜなどこの90年間に大流行を引き起こしています。 同時にヒトは想像カを与えられました。 どうか足で歩き、額に汗した後、頭で考え、その先を想像してほしいと思います。


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