このレポートは、かたつむりNo.350[2011(平成23)01.08(Sat.)]に掲載されました

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新「常用漢字表」
運営委員 道 上   定
 
 4月の異動・移動の時期を間近にしたいまごろ、話題になるのが地名や名まえの漢字。
 かなり前のことになるのですが、藤沢市では各地区で市民集会を行っていました。 地域の質問や提案を行政運営に生かそう、というものです。 「地名の片瀬のカタが漢字で二とおりあるのはおかしくないか。一つに統一すべきです。」と市民。 「さよう検討します」と理事者。結果は現状のとおり。

 たしかに片はもう一つあるのです。「鵠」沼も2種類、「辻」堂、「葛」原にも。このように正字・俗字そして誤字があります。 活字を使った印刷物に誤字は原則ありません。母字から作った活字は「康煕字典」体を基準にしているからです。 誤字は手書きの時発生します。公簿上の表記では戸籍簿が最たるものです。 戸籍制度は明治のはじめに本格的にはじまったのですが、黎明期とはいえ、康煕字典はもとより、 満足な字引もそろっていない時代に、届けをする人も字をよく知らないのに、制度はできたのです。 届け出人も役人もあいまいな中で処理し、表記したのです。
 『康煕字典』は、中国の清・康煕帝のとき編纂された漢字字典。30人の学者が5年かけて1716年に完成。 厳密な書体と字の成り立ち、発音、典拠で4万字をのせています。 復刻の体裁で『標註訂正康煕字典』が1977年に講談社から発行されましたが、ただいま品切れとなっています。 「辻」がないぞ!だって。これは国字。国字と言うのは日本製の漢字。辷った!(=すべった)。これも国字の漢字なのです。 国字には音読みはなく、くんよみだけです。それにしても、辻も辷も雰囲気をよく伝えていますよね。 でも、よく見ると、点が1つと2つですよね。 一点しんにょう、二点しんにょうと二種類あって使い分けしてるようですが、わたしも根拠が分からんのです。
 ひらがなもカタカナも漢字の部品を拝借して生まれたわけで、その点大事にしなくてはいけません。


 ところで、人名用漢字についてはその誤字・俗字がたくさんあって一覧表ができているくらいだ。 わたなべさんの「辺」にあたる文字は50前後あるんじゃないか。さいとうさんの「斎」も多いのです。 厳密には公簿上の表記、戸籍上の表記に従うことになりますが、誤字・俗字の発端は基準がないまま、しかも手書きではじまった。 ですから一定の幅を行政も市民ももたなくてはなりません。「土」に点がつく苗字があり、しかも土の上だったり、あいだだったり・・・。 「点がないのは人格を傷つける」と言われた私はどうする。

 「常用漢字表」の前身である『当用漢字表」が割定されたのが1946年、あまり漢字が多いと負担になる、と制限色の強いものでした、 経済の高度成長と教育水準の高まりとで.漢字制限に不満がでて、「常用」となり、 併せてワープロなどの漢字にまつわる周辺機器の急激な発達で、個人で漢字を作字できるまでになりました。いいんだか、わるいいんだか。 ケ一タイまで行き着いて、押して、たたいて、なでて出す漢字になってきたのです。 05年3月、文部科学大臣が文化審議会に対して、『情報化時代に対応する漢字政策の在り方について』諮問。 5年かけて議論したのが、29年ぶりに改訂され去年11月30日内閣告示された今回の常用漢字表です。 「漢字使用の目安」ですが、漢字教育の基準ともなります。使用頻度の低い5字を削り、196文字を加えて全部で2136字。

 さて、ことしの干支は兎(うさぎ・卯)。 うさぎの絵を描いたり、卯の漢字を大きく書いたりして年賀状のうさぎがたくさん飛び交ったことでしょう。
 「卯」に「日」がのぼって「昴(すばる)」。六連れ星とも、そう、れっきとした日本語。この1月下旬の宵に南中するおうし座。 その中にあって地球からの距離は約410光年!遠いなあ。月までの距離は?
 あなたはお月さまに兎を求めますか、それとも昴の仲間たちに兎を探しますか?ほんの少し顔をあげて遠くをながめて見ましょう。 きっと向こうから笑顔となってかえって来るはずです。

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