このレポートは、かたつむりNo.358[2011(平成23)08.28(Sun.)]に掲載されました

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物があふれ、こころが・・
運営委員 道 上   定
 
 東京電力福島第一原子力発電所の放射能洩れで、原則「立ち入り禁止」となっている20キロ圏内の「警戒区域」で、 去年の3倍の窃盗が発生しているといいます。空き巣、ATMからの窃盗が多いようです。 事務所・店舗も荒らされ、洋服など着ることができるか腕を通し脱ぎ捨てたままがあったり・・。 もっともこれは「使用窃盗」と言われるもので犯罪とはなりませんが。
 ATMの機械を電気のこぎりで壊すのも目立つといいます。 その際コーナのコンセントに電気のこぎりのプラグを差し込み利用すれば「使用窃盗」ではなく電気の「窃盗」罪にあたります。
 えっ?ちょっと待って!刑法では他人の「もの」をこっそり盗むことを窃盗罪と言うのでは? そして民法では「もの」とは有体物、つまり形のあるものを言うそうだから、電気はモノとは違うじゃないの?
 基本はそのとおり。ですが、ここでは「動かせて、管理ができるモノ」であれば、有体物でなく、電気でも窃盗罪が成り立つのです。 「電気は、財物とみなす」との規定も刑法に盛り込まれています。 ケータイのACアダプタをコンセントに差し込んだら、お見込みのとおりです。
 それにしても被災者が先も見えなくて苦しんでいるのに、被災地に入って盗みをはたらくとは!

 1877年(明治10年)7月、アメリカ東海岸から横浜に上陸。江の島目指してやってきた青年海洋生物学者がいました。 貝類、腕足類の採集・研究が目的でした。名前をエドワード・シルベスター・モースと言います。 島では網小屋を借り上げ臨海実験所とし、宿はEBS旅館にとりました。
 「大事な財布だから、預かっといて」とモースさん。
 「そこのお盆に載せといて」と、宿の主人。ええっ?あ、そう。と、そのときは思った。一仕事終わって戻ると財布はそのまま。 二日経っても、そのまんま。
 「だいじょうぶ。たしかに預かってますから』と主人。
結局引き取るまで財布はそのままで、ぶじモースさんの手へ。モースさんは唸りました。 よそではちょっと目を離したすきに、盗まれるのに。どうだ、この江の島では。人がこんなに行き交うのに、盗まれないなんて!
 感激ひとしおのモースさんでした。

 いつの頃からか物があふれ、こころが足りなくなりました。 洋服のツギが、靴下のツギが視野から消え、他人を思うポケットのふくらみも消えて、みんなこぎれいになりました。

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