このレポートは、かたつむりNo.397[2014(平成26)04.13(Sun.)]に掲載されました

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修理の値段
運営委員 道 上   定
 
 孫から頼まれたんですヨ。数字がでないし、電池替えようとしたけど、裏のふたが開かないんです。 古いのでもう、新しいのを買えばいいんだけど・・・。
 80はとうに過ぎ、米寿の穏やかさが見える女性から受け取ったのは歩数計。温かい。カウンタのボタンを押すが反応なし。 裏返す。ねじ1ぽん。プラスの溝がすっかりくずれて左も右もドライバーがききません。ケースそのものがひっかき傷だらけ。
 ねじの頭の周りに溝を掘り、ケースを開けました。ボタン電池は消耗。振り子接点のゴミを取り、ねじを取り替える。 電池はもちろん取り替えた。「おもちゃの病院」なので〔子どものおもちゃ〕が、修理の対象。女性はじゅうぶん承知のうえ。 だから、孫から頼まれた・・と、こうなるのですが、まさか亡くなった主人のものです、とはいえない。
「まだ十分使えます。だいじにしてください、とお孫さんに伝えてください」
 おもちゃの材質が悪いようです。 とくに配線のビニル線は、被覆のビニルもそうですが、肝心な中の銅線も不純物が多いようで、酸化がはげしい。 柔軟性に乏しくて切れていることがしばしば。町なかの電柱に登って作業した後の工事担当者の真下には、時たま細い電線の短い束やくずが落ちています。 この電線は材質がいいので電子工作や修理によく使います。
 また、おもちゃには多くの場合プラスチックを外装に使います。そのとき、できるだけ「継ぎ目」を目立たないように設計するのですが、 ねじを多く使うものから少ないほうへ、できれば使わないやりかたで。と進んでいます。これが修理する私たちには困りものなのです。 おもちゃの「解体」をするきっかけがつかめないこと、たびたびです。かん合と言って「はめあい」結合が重宝されるのです。 ぴったり収まっていると継ぎ目を確認するのに時間を費やすのです。ねじもタッピングねじのほうがナット、ワッシャ不要で便利だし、・・と。 要するに修理は設計の前提にはなっていないのです。(おもちゃを長期間使われるとこまる。まして修理して使われたのでは、の声が聞こえます)。
 修理と言えばこのまえ、12バンド全波帯受信機の音量調整ボリュームの調子がわるく、量販店の修理部へ修理依頼しました。 後日メーカーの担当から電話があり、9135円かかる、とのこと。(新品をお求めの方が・・・)(もったいない!さりとてボリューム1個で9000円だすのも・・)。 結局修理に同意。戻ってきた受信機に添付の内訳書によるとボリューム1個なんと¥600だと。
自分で直せばいいのですが、今の製品はICをともなう集積回路でプリント基版がほとんどです。 断線はコレ、ショートはアレと分かっても、いざ交換作業は無理。双眼実体顕微鏡下での作業に近く、事実上不可能です。 実務上どうしているかといえば、ユニット交換、アセンブリ交換と言って回路や組立部品の「ひとかたまり」をそっくり取り替えるのです。 結果としてそれの方が安いのです。
人件費は高いのか、安いのか、望ましいあり方をみんなで考えましょう。

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