野草はどこへ往った | |||||
−野外活動から私の見たこと考えたこと− | |||||
運営委員 鈴 木 照 治 | |||||
近頃、街なかでは、セミが鳴かなくなったとか、トンボを見ないとかいわれますが、
植物の方でも事情は同じで、昔はどこにでもあった野草が、
今はどこをさがしても見つからなくなりました。春のスミレやイカリソウ、初夏のヤマユリ、
秋ならアキノキリンソウ、野菊(ノコンギク:湘南台高校裏の田んぼの畦にありました)など、
3〜40年前までは市内のどこにでもあった野草が、
今ではごく限られた場所にしか見られなくなってしまいました。 2002年の夏季活動で箱根や丹沢を歩きましたが、そこでは、昔から日本で親しまれた野草 (例えば秋の七草)が、たくさん見られました。いったいどうして、藤沢ではこんなに、 野草がなくなってしまったのでしょうか?科学の眼で見ると、その最大の原因は、 一口に言えば「人間のもたらした都市化による環境の変化」であるといわれています。 それでは環境のどこがどう変わったのか、誰にもわかりやすい説明がほしいところですが、 定説といえるものはありません。やむなく、自分で考えることにしました。まず、何を、 どう調べればよいのか、考えを進めるヒントとしては、昔の野草に換わって、 今勢力を得てはびこっている植物が何であるかを見ることから始めてみます。今、 藤沢の道ばたや空き地に見られる野生の草は、そのほたんどが外来の雑草で占められています。 しかし、よく見れば、日本に昔からあったとされるススキやヨモギ、イタドリ なども生えているところがあります。そういうところは、 ふだんあまり人の立ち入らない場所との境界になっていることに気づきます。そこはおそらく、 昔のススキやヨモギの原と同じ環境条件なのだと思われます。 人間の影響のない自然の中でススキはどんなところに生えているのでしょうか。 自然植生の中でススキの自生地をさがすと、 山や谷のガケくずれのあと山肌をあらわにした崩壊地の岩礫(岩の破片)の間隙(すきま)です。 ヨモギやイタドリもこれに似た場所に見られます。 むかし、「おれは河原の枯れすすき……」という歌がはやって、 ススキが河原に生えると思われがちですが、 ススキは河原の「土手」には生えますが河原そのものには生えません 河原に生えている「ススキの穂」の正体は「オギの穂」です。 オギはススキにたいへんよくにていますが別の種類で水辺の湿地に生えます。 ススキとオギとは、遠くからでも簡単に見分けられます。ススキの茎は株立ちで、 数本から数十本の茎が根元を束ねたように一ヶ所から叢生(そうせい=群がって生える)します。 一方、オギの茎は、1本、1本が数センチほど離ればなれに地面から生えています。 藤沢の境川でも教育文化センター前あたりの「ススキの穂」の正体はオギです。 そこではいくらさがしてもススキは一株も見あたりません。 都会の空き地に生える雑草の中には、このオギも紛れ込んでいるようです。自然の中では、 オギは高水敷といって、川が氾濫して平常の水面より数mも高い所に土砂がつもった場所に 最初に生えて群落をつくります。ヨモギやイタドリの故郷もこの高水敷です。 このように、都会の空き地に生える植物の中には自然の中の崩壊地や河辺植生の構成種 (組織の一員となっている種類)が見られることは、 都市の置かれている環境を知る手がかりにできそうです。 では、以前あった野草が見られなくなった藤沢のような都市の空き地では、 それにかわってどんな雑草がその場所を占めているのでしょうか。路傍(道ばた)や空閑地 (空き地)の雑草の殆どは、短期1年草や越年草(まとめて1・2年草) という生活サイクルを持っています。造成されて新規にむき出しになった土の上に最初に芽生えて 緑の群落をつくるのはこの仲間の雑草です。造成が冬期なら夏草が茂り、夏の造成では、 翌年の初夏には越年草が最盛期を迎えます。もしその空き地を、 人を入れずにそのままさらにもう1年放置すれば、手の付けられないほど雑草が繁茂します。 一年目にはまだ低かった草丈が1mを越すほどすきまなく生えそろいます。 ですから空き地は毎年繰り返し草取りをする必要があります。 根こそぎ取るよりも刈り取る方が労力がかからないので、毎年刈り取りを繰り返すうちに、 多年草が進出して1・2年草にとってかわりますこのようにしてできた草原を 「二次草原(人の影響のもとに成立する草原植生)」といいます。 日本在来の野草の多くは多年草で、人里近くでしばしば刈り取りの行われる場所に 住み着いてきました。しかし、市街化のすすんだ住宅地域では、 在来型の野草が生活しにくい何かしらの障害があるために、姿を消したものと思われます。 気がついてみると、日本の平野部における草原植生は、在来野草主体の農村型二次草原から、 帰化植物主体の都市型二次草原にかなりの部分が移り変わってしまったのです。 どんな街なかでも空閑地(空き地)はもとより、人の住む庭でも、 ほうっておけばたちまち草ぼうぼうになってしまいます。花壇用の草花、 もしくは庭園用の植物の多くは、都会の環境条件の下では雑草より生活力が弱いので、 庭をよい状態に保つには、「雑草とり(除草)」が欠かせません。しかし、ここで、 少しだけ工夫することにより、あまり草とりに悩まされずにすませることができます。それは、 多年草(宿根草や球根)を上手に利用することです。 宿根草で庭をすきまなく覆いつくせば雑草は生えてきません。やり方は簡単で、 はじめから今はやりの寄せ植えのように密植(たがいの葉がふれあう程度につめて植え込む) すればよいのです。春、秋の移植適期には、増えすぎた種類を抜き取って、 そこにできた裸地には、増やしたい種類を補えばよく、 毎年花を見るためには適量の肥料を補います。このようにすれば、 意外に手のかからない多年草主体の和式もしくは洋式の庭園ができます。 それには在来もしくは外来の宿根草が植え込み材料に使われます。ちなみに私の家の庭で、 十年以上雑草に負けずに生育を持続している日本在来の宿根草は約3 種で、ツワブキ、 カンアオイ、ギボウシ、カンゾウ、エビネ、アヤメ、シランなどです。さらに、 きわめて丈夫な外来の宿根草花を加えて、庭をすきまなく埋めつくすことにより、 雑草のほとんど生えない庭になります。そして、それぞれの宿根草が、 年に一度はきれいな花を見せてくれます。特に、春から初夏、 そして秋には庭全体が美しい花園と化し、夏の盛りも真冬でも花の絶えることはありません。 ここでは、20年、30年の永きにわたって安定した状態が保たれて、 在来の野草が生き続けています。(別表参照)
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