富士山を写しに行って | ||
運営委員 鈴 木 照 治 | ||
昔、藤沢から、晴れた日は、いつも西の地平に、富士山の姿がありました。
しかし、今では、天気は晴れても空がかすんで富士山は見えません。
わずかに、夕焼け空に、影絵のような姿が浮かぶだけです。
しかし、年に2回だけ、1月1〜3日と8月14〜16日には、晴れていれば富士山がよく見えます。
もちろん、それ以外の日でも、全く見えないわけではありません。
北風の吹く冬の朝や、台風一過の秋晴れの朝など、ごくたまに、富士山が見えることはありますが、
それでも8時を過ぎる頃には、かすんで見えにくくなってしまいます。
これは、地上付近(地上約300m上空まで)の空気中の極微細炭素粒子による光の散乱
(青霞=アオガスミ)が原因とされます。
これからジーゼルエンジンの規制がきびしくなるので、十年後には、大気の状況も改善されるかも知れません。
こんな今日的問題をふまえて、私は以前から「藤沢から見える富士山の写真」を機会があれば撮るようにしてきました。 さて、2003年の正月は、三が日のほか、4日、5日も連休になり、雨上がりの1月4日の朝は、 絶好の機会でしたので、藤沢からも雄大な富士山を見渡せるポイントの一つ、宇都母知神社の近くに出かけました。 小高い丘の上から西側はさえぎるものがなく、遙かな山並みの上にはひときわ高く抜き出た富士が望めます。 ただ、このときは小さい雲が頂上近くにかかっていました。 神社の西南に江戸時代の神仏習合の名残の鐘突堂があり、その西側のポイントにはすでに車が来ていて、 写真機を構える人もいました。 そこからのショットは、前方に温室が入るため、少し南よりの別の場所に行くと、 そこには軽自動車が1台だけで、ほかにはだれもいません。 そこでカメラを取り出し、頂上が見え始めたところでシャッターを切っていると、車から人が出てきて話しかけてきました。 「8時半頃はとてもよく見えたよ。」、…「ここは右手の木と、左手の木がじゃまだ。」… 「あそこのタンクの向こう側まで行けば、前にじゃまものはないよ。」… 「だが、畑のまん中へ行くのは気が引けるよ。この辺では、だれかしらが見ているからね。」… 「このあたりの野菜も、けっこう金目のものだからね」… 「ここの野菜は、用田(御所見)の方のとちがって冬も緑だ。」… 「あっちの方は今頃になると葉が赤くなって売り物にならないんだよ。」… 「どっちも風が吹くが、こっちの風は暖かくて、霜も朝のうちにとけちまうんだよ」。… 「64(歳)になる。年金が10万もないんで、土地を借りて野菜を作ってる。あっちに2反、こっちに2反とね」… 「厚木にも2反借りたが、工事が始まるってんで返したよ」… 「いろんなところに同じ野菜を作って、出来具合を比べてるんだ」… 「テレビでやってたろ、東京で小松菜のよくできるところ注1)。 あそこじゃ秋に小松菜の花が咲くそうじゃないか。」… 「キャベツも作ってるが、厚木の方じゃ春に花が咲いちゃってね。ここいらの方がよくできるよ」… 「ここらでやってるのは、みんな有機栽培さ、一つ100円で売れるよ。 (20m四方くらいの畑を指して)ざっと100万かな」… 「だから、ここら一帯、たい肥のにおいさ。えさの中のたねがふんに出るから、草がどんどん生えるよ。 見て見ろ、草がずいぶん生えてるじゃねえか。こんなにカラスが群がるのも、あの神社の森とたい肥のせいさ」… 「便利な世の中になったもんで、どうすりゃ花が咲くのか、細かいことまでみんなわかってるんだ。 パソコンで全部出てくるよ」… 「こまかい温度変化の条件次第で花が咲くんだ」… 「そこにあるのはブロッコリーだが、あともう少しすれば出荷できるよ」… 「ここいらじゃ温室もハウスもなしに冬の野菜がつくれるのさ」 図らずも、湘南地方の気候の特色について、集中講義を聴くことになりました。
注1)
東京−千葉を結ぶ京葉道路(14号線)が荒川下流を渡る小松川橋のあたり一帯。
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