このレポートは、かたつむりNo.252[2004(平成16)1.11(Sun.)]に掲載されました

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クマノミズキの話
運営委員 鈴 木 照 治
 
 クマゼミモンキアゲハのように、植物にも南方から関東南部までに見られるものがあります。 藤沢では、江の島に自生するフウトウカヅラホソバカナワラビがそれですが、 ミズキによく似て、紀伊半島の熊野に多いクマノミズキもこうした暖国の植物の一つです。 2003年6月の活動で境川べりを歩き、今田の四阿(あずまや)のある公園を過ぎたあたりの山側に、クマノミズキ が満開の花をつけていたのが忘れられません。 普通のミズキは花が咲くのが4月下旬から5月上旬のゴールデンウィークですが、クマノミズキ の開花は6月上旬ですから、1ヶ月も遅いわけです。花の時期以外にも、葉の付き方も違います。ミズキ の葉が互生(茎からたがいちがいに出る)なのに対し、クマノミズキの葉は対生(茎から2枚づつ対になって出る) します。冬、葉が落ちると、枝がよく見えますが、ミズキの梢は若枝の先が赤く、車状に枝分かれしていて、 クルマミズキの一名を持つことを示します。クマノミズキの方は、小枝が対生するので、ハッキリ区別できます。 葉っぱ1枚では区別しにくいのですが、ミズキの方は葉の柄が長く、葉身は丸味をおびるのに対して、 クマノミズキの葉柄はそれほど長くはなく、葉身はやや細長く、小判型なのですが、どちらも庭木の ハナミズキによく似ています。私が始めてクマノミズキの存在に気づいたのは30年前、 茅ヶ崎の堤地区(大庭霊園の西)の「茅ヶ崎市民の森」で、藤沢にもあることは知りませんでした。
 北海道にはミズキしかありませんが、関東から東北はミズキが多く、クマノミズキ はあまり見られません。しかし、関東南部から西の西南日本には両者が混じって生え、しかも、 どちらも同じような環境を好みますから、うっかりすると、間違えるおそれがあります。私も6月活動の時には、 境川でミズキの花を見つけて、「なんで今頃、ひと月も遅く咲くんだろう」と夢中でシャッターを切るうち、 ああこれはクマノミズキなんだと気がつきました。
 その後、8月中旬、もう一度この近くに行く機会がありました。暑い盛りのはずでしたが、 この日は曇りがちで気温もあまり上がらず、生育状態が心配なイネのようすを見るためでした。 遊水池橋のきわの六会団地から、日大の牧場にぬける細道があり、犬の散歩に行く人がいるので、私も入ってみました。 イネはちょうど花盛りで、例年より一週間ほど遅いようでした。植物全体が赤い赤米のイネも観察できました。 田んぼを見下ろす丘の斜面にはクマノミズキの若木が生えていて、 このあたりには何本か自生することがわかりました。
 クマノミズキミズキクサギアカメガシワなどの夏緑広葉樹と同様、 ガケなや急斜面など過去に土砂崩れがあって、植生が破壊されたところに生える林縁植物です。 これらは、人里近くに自生することが多く、自然に野生する樹木の中ではよく見られる木です。


ミズキ
2003.5.5 ミズキ
  クマノミズキ
2003.6.8 クマノミズキ



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