このレポートは、かたつむりNo.255[2004(平成16)4.4(Sun.)]に掲載されました

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サクラの開花
運営委員 鈴 木 照 治
 
■ソメイヨシノ '03.4.6  今年も一昨年同様、桜の開花が早くなりました。毎年、日本全国の桜の開花予想が出されます。 その基準になるのはソメイヨシノという種類(品種)で、予想通り、東京、横浜で3月18日に咲き始めました。 ソメイヨシノは成長が早く、植えてすぐ花が見られるので、明治以来、全国的に広まりました。 このソメイヨシノの起源については昔、学会で話題になったことがあります。 江戸末期、染井(この地名は今はなくなり、巣鴨駅の近くに「染井吉野」の記念碑が建てられました) の植木屋が売り出したのが始まりとされ、オオシマザクラとエドヒガンの雑種であることがわかっています。 この二つの種類が自生する伊豆半島に生じた自然雑種が起源ではないかと推定されています。 街中にあるソメイヨシノには実がならないのがあたりまえのようですが、私が子供の頃は、 よく実をつけているものがありました、中でも鎌倉山の桜並木は実をたくさんつけ、 食べ物の少ないときでしたから盛んにとって食べた記憶があります。 大庭城址公園のソメイヨシノにも実をつけるものがあります。 街中のソメイヨシノに実がならないのはなぜか、その理由は、桜が他花受粉で、 ソメイヨシノの花粉がソメイヨシノの雌しべについても、実ができないからです (自家不稔、自家不和合性などといいます)。 ソメイヨシノは接ぎ木によって増殖されたいわばクローン (遺伝子構成が全く同じ個体=DNA鑑定で、同じ人間と判定される場合と同様)だからこういうことになるのです。 ヤマザクラやオオシマザクラは実生ですから、遺伝的には別の個体で、 近くの木の花粉が昆虫によって運ばれれば受粉して実がなります。 大庭城址や鎌倉山にはヤマザクラなど他の木が近くにあって、その花粉がつくため、 ソメイヨシノにもたくさんの実が付くわけです。ちなみにソメイヨシノと同時期(4月上旬)に満開になるのは、 ヤマザクラ、ヒガンザクラ(エドヒガン)、オオシマザクラなどです。
■タマナワザクラ '04.2.11  ソメイヨシノになった実から種子をとって蒔くと、親とは違ったさまざまの子供が生まれます。 2月に満開となるタマナワザクラ(玉縄桜、白〜淡紅色)は、こうして生まれたものです。 大船フラワーセンターでは、2月上旬から咲き始め、2月下旬〜3月上旬に満開となるタマナワザクラを増やしています。 大船では、早咲きで知られる南伊豆のカワヅザクラより少し開花が早いようです。
 ソメイヨシノをふやすには、ヤマザクラかオオシマザクラの実生を台木にして、 これに接ぎ木をして苗木をつくります。多数植えたとき、数十本の中に一本ぐらい、 台木そのものが混じることがあり六会中学や、藤沢団地にそれぞれ一本、大きく育ったヤマザクラが見られ、 たくさんの実をつけます。ヤマザクラは市内に大木が多数あり、多くは自生と思われますが、 植栽する場合もあり、若木の自生はもっと多数あると思われます。 オオシマザクラは六会中学はじめ市内に数カ所、植栽と思われる大木があります。 ■オカメ '03.3.20 どちらもよく実がなるので、種を蒔いて育てれば、いくらでも苗を育てることができます。 湘南から三浦の山にはオオシマザクラの大木がありますが、生育の早いこの桜を江戸時代から植えたといわれますので、 自生かどうかはいちがいにはいえません。また、育てた苗を台木に、 接ぎ木をすればいろいろな品種を育てることが可能です。品種によっては挿し木で簡単にふやせるものもあります。 オシドリザクラ、リョクガクザクラ、オカメなど、マメザクラ系は、3月芽出し直前、 わりばしほどの枝先を挿すとよく活着します。同じ系統のゴテンバザクラは小苗のうちからよく花を付け、 実生でも二年目に早くも花を付けるほどです。

■カンヒザクラ '04.3.15  昔から「桜剪(き)るバカ、梅剪らぬバカ」といわれるのは、桜を剪り込むと、切り口から菌が侵入し、 そこから腐りこんで枯れることがあるからで、どうしても剪る必要がある場合は、冬に剪り、 切り口に癒合剤(チューブ入り接ぎ蝋、なければメンタムなどの軟膏でよい)を塗ります。もっとも、 前述のマメザクラ系の品種の多くは、花を付けた枝をどんどん切って切り花にしても、木が枯れることもなく、 ますます枝を広げ、毎年よく咲いてくれます。リョクガクザクラの切り花が生け花によくつかわれるのも、 「剪ってよい桜」だからです。マメザクラの多くはソメイヨシノより開花が遅く、大山、丹沢、箱根、 伊豆などに自生し、山頂付近ではゴールデンウイークの頃が、花の見頃です。 マメザクラの仲間のゴテンバザクラはソメイヨシノより遅咲きで、この頃咲く他の桜とちがい、 葉が開かないうちに花をつけるので、ヒガンザクラやソメイヨシノのように木全体が花でおおわれる風情を、 4月中旬に楽しめます。三浦半島を歩くと、梅と同じ時期に、 すんなり伸びた小ぶりの木に白い小輪の花をつけるコヒガンが見られます。 コヒガンはマメザクラとタチヒガンの雑種とされ、信州高遠城の桜で有名ですが、自生もあります。 鎌倉極楽寺裏山の忍性墓入口に何本か見られます。なお、タチヒガンの大木は北鎌倉浄智寺境内のものが有名です。 マメザクラとカンヒザクラ(沖縄では1月下旬に咲き始める濃紅色花)との雑種であるオカメという品種は、 小輪ですが、3月中旬から4月中旬まで、1ヶ月間も花を楽しめます。マメザクラの仲間は木が小さく、 庭植えにしても、あまり場所をとりません。近年、サクラの新種が発見されたとの記事が新聞に出たことがあります。 多摩の一角で発見されたヤブザクラの近似種で、マメザクラの雑種とも見られています。こどもの頃、 鎌倉の山中で、冬に桜の花を見て、不思議に思った記憶があります。今でも鎌倉浄妙寺のあたり、 民家の庭に咲く冬桜を見かけます。報国寺に「十月桜」と名札のある桜の木があり、 毎年初冬の境内を飾っています。冬桜は鬼石の桜山(群馬県の埼玉県境)が有名です。 冬桜は木の性質がコヒガンに似て、やはりマメザクラの血を引くものです。
■カワヅザクラ '04.3.3  ソメイヨシノと同様に、自然にできた雑種であることがはっきりしているのが、「河津桜」です。 発祥地の河津では2月の花見時は大変な人出のようですが、近頃はあちこちにこの早咲き桜の名所ができました。 河津桜は昭和30(1955)年頃、地元の人が,近くの河原で見つけて庭に移し植えたのが始まりで、 「早咲きのオオシマザクラ」とカンヒザクラ(寒緋桜=中国南部原産、沖縄で冬咲き、藤沢で3月中旬)の交配種です。
 数年前、藤沢にも早咲きの桜があることを見つけました。藤沢公民館の東隣りにあたり、 御殿橋西側たもとを川沿いに30m上流の民家にかなりの大きさの桜があり、2月の半ばに満開になるのを知りました。 見たところコヒガンザクラのようでしたが、それにしても開花期があまり早いのに驚きながら、ここ数年、 写真を撮ったり、年賀状の写真に入れたりしていました。そして今年の2月、開花中の枝を手にする機会があり、 カワヅザクラとではないかと思いました。遠くから見るより、ずっと花の紅色が濃いのです。 10mほど離れてもう2本、早咲きの桜の木があり、やや遅れて花を咲かせていました。 ■藤沢の早咲桜 '04.2.22 もし、カワヅザクラとすると、河津と同じ時期に咲くので、市内の他のカワヅザクラよりずっと早く咲くことになり、 なお、疑問が残ります。タマナワザクラであるとしても開花が一週間ほど早すぎます。 開花期が一致するのはカンザクラです。カンザクラは最も早く咲く桜で、淡紅色一重ですが、 かなり色は濃いので、カワヅザクラと間違えてもおかしくないと思います。樹幹の色から見ると、 カワヅザクラよりヤマザクラに近い感じなので、やはりカンザクラなのでしょうか。 カンザクラはヒカンザクラとヤマザクラの雑種といわれます。藤沢にはまだ他にも早咲きの桜があります。 湘南台の円行公園の前に3月中旬に満開になるオオカンザクラ、荏原製作所の入口に数本、 ソメイヨシノより一週間早く咲く出すサクラ(品種不明)、 六会の日大構内に2月中下旬に咲く桜(タマナワザクラ)?が3本、などさがせばまだありそうです。



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