ハマカンゾウの開花 |
運営委員 鈴 木 照 治 |
どんな種類の植物でも、その生態を知れば知るほど、不思議さと謎が生まれます。
茶臼山ロッジで見た昼咲き月見草については、昨年の特集号に書きましたが、
もっと身近な藤沢に自生する植物でも、その生態の謎を見つけることができます。
それは、江の島にいち早く秋の訪れを告げるハマカンゾウの不思議な生態です。 初夏のスカシユリに続いて、夏から秋の江の島の海辺に美しく色を添える海岸植物は ハマカンゾウです。花の直径5〜6cm、明るいオレンジに黄の筋入りで、 スカシユリより少し細弁だがより派手でほぼ同じ大きさの花が、日盛りの崖の上や下の縁(ヘリ)、 ときには砂浜の一角に群生する様は壮観なのですが、残念ながら、それは昔の話で、 今ではスカシユリともどもかつてのように群生してはいません。 しかし、よく見ると、花は付けないものの、小さな葉が多数、島のあちこちに生き残っています。 このことは、とりもなおさず、環境条件さえ昔のようにととのえば、 いつでも回復して花を付けることを意味します。洞窟へ行く途中の見上げる断崖の上には、 数株が毎年花を付けているのが観察されます。ハマカンゾウの開花期は、 暦の上での初秋に始まります。ツルボというかわいい球根 (随所に見られる雑草ですが、シラーと呼ばれるおなじみの同属園芸種があります) と同じ頃ですので、その花を見れば「ああ、今年もハマカンゾウの咲く季節か」と気づきます。 ハマカンゾウの開花最盛期は、ヒガンバナの開花期とほぼ一致します。 ハマカンゾウについての、興味深い謎というのは、開花期の微妙なずれです。 ハマカンゾウの自生地は関東以西の太平洋岸ですが、 私はこれまで、「西へ行くほど開花が遅い」と思いこんでいました。 それはちょうど高原のススキが平地より早く穂を出すのと同じく、 秋の訪れをいち早く感じて花を付けるのだと勝手に解釈していたのです。 ところが、いちがいにそうとばかりはいえないことがわかってきて、とまどっているところです。 ![]() ![]() さて、平成12年の秋、10月13日、江の島の南の崖にハマカンゾウが咲いているのが見られました。 江の島系の野生種が以前のように、島全体に繁ってほしいと願うとともに、プランター、花壇、 植栽のいずれにも丈夫に育つハマカンゾウをぜひ植え広めてほしいと思います。ハマカンゾウ に限らず、ヘメロカリス属の野生種は、海岸を好んで生育するものが多いので、 湘南海岸の美化には最適の植物であることは確かです。四季咲き、 もしくは初夏と秋の二季咲きのものを海風にさらされる悪条件の場所の緑化材料に利用できると思います。 2003年夏、テレビで、埼玉県見沼田んぼのあぜ道沿いに、地元の人たちがヤブカンゾウと ノカンゾウを植え、これが見事に咲きそろった姿(7月上旬)を写していました。 丈夫で繁殖力の強いものですから、日当たりさえよければ、年1〜2回、真夏(もしくは冬)の草刈りで、 大群落を造成することができます。 ハマカンゾウもヘメロカリスも同様の管理で持続させることが可能です。 コスモスやヒマワリの畑が人を集める時代になり、ヘメロカリスの大花園もできています。 見渡すかぎりハマナスやエゾキスゲ (ユウスゲに似てひる咲きのヘメロカリス) の咲き続く北海道オホーツク海に面した小清水海岸の原生花園は有名ですが、ハマカンゾウや スカシユリが湘南海岸を美しく飾っていたのはそう遠い昔ではなかったことも、 付記したいと思う次第です。 知っているつもりだったハマカンゾウについて、開花期ひとつをとっても、 知らなさすぎたという反省が残りました。ハマカンゾウの開花期は、キスゲ 属の中では最も遅く、7月下旬から10月中旬までと巾があること、個々の株がいつ咲くのかは、 生育環境によるのではないかということが、今の私の見解です。いずれにしてもノカンゾウ とは明らかに開花期は違います。 |