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| 山菜:野菜と野草:雑草 |
| 運営委員 鈴 木 照 治 |
科学少年団の4月活動は、毎年「雑草を食べる会」ですが、
22年前の第一回だけは「野草を食べる会」となっています。
その頃、少年の森のあたりには、まだ「山菜」と呼ばれる「野草」が、
かなり残っている状態だったので、自然を大切にする科学少年団の名に恥じないよう、
次の年から「雑草…」に替えたのでした。「野草」と「雑草」と、
どう違うのか、どちらも普通に使われる言葉ですが、ハッキリした区別があるわけではなく、
野草とも雑草ともつかないものもたくさんあります。どちらも、自然に生えている植物ですが、
野草というと、自然の中で生活しているイメージをもち、雑草というと、
生えては困るようなところに生えるため、自然とは異質のイメージを持ちます。
さて、私たちは、ふだん「野菜」を食べます。
そして、ときには「山菜」を食べることもあります。
「山菜:野菜」と「野草:雑草」という2組の対立語について考えると、
前の組と跡の組とでは、「野」の使われ方が、なんだか逆のように錯覚してしまいます。
「山菜」は野山に自然に生えている「食べられる植物」で、「野菜」は、畑などで、
人間が栽培している「食べられる植物」ですが、野菜のほとんどが外来植物です。
これに対して「野草」は、野山に自然に生えている、日本在来の植物で、「雑草」は、
ちょっとした空き地にも生える外来植物(その大部分は)です。
昔から、田畑、あぜ道、土手に生えている雑草
(街では少なくなった)は、遠い昔に渡来し、
農耕地に定着した「史前帰化植物」とされているので、「雑草」のほとんどは外来植物です。
ですから、在来か、外来かという点に目をつけると、山菜_野菜 と 野草_雑草とでは、
「野」の字が全く反対側の植物グループに使われていることになります。このねじれのもとは、
野菜 ということばの意味内容の移り変わりにあるようです。私たちは野菜 を以前
(二、三十年前)は八百屋で、今はスーパーなどで買いますが、
百年ほど前までは、野菜を専門に売る店のあるのは人口の多い町だけで、昔の人のほとんどは、
八百屋などない村に住んでいました。そして、山野の食べられる植物
(木の芽や草の柔らかい部分)
を採集するか、屋敷内や裏庭、家の近くの小規模な自家菜園で育てる古典野菜
(ねぎ、かぶ、大根など)や栽培山草
(ふき、ぎぼうしなど)を食べていたと想像されます。
古代の貴族も、いわゆる野菜 を求めて野山に出たことが、和歌に詠まれています。
有名なのは百人一首の
「君がため 春野の野にい出て若菜つむ わが衣手に雪はふりつつ 光孝天皇(古今集)」です。このように、
野菜は、古くは山野の食草を指していたのが、やがて商いの対象となり、
いつしか店で売られているものを野菜というようになったので、
「野」の字だけが遠い昔の野山に野生していた名残
(なごり)を示しているのです。野草と雑草の話になりますが、春の野山に見られる植物のうち、スミレの各種は 野草といえるのに対し、ナズナ、シロツメクサは雑草になるでしょうが、 ホトケノザ、カキドオシは、野草なのか雑草なのか、ハッキリいいきれませんし、 タンポポもカントウタンポポならば野草で、セイヨウタンポポなら、雑草とややこしいのです。
ホトケノザは畑にも生え、スミレも庭すみに生えれば雑草ともいえそうです。また、ハコベ、
ノミノフスマ、スズメノカタビラなどは史前帰化植物といわれる畑地雑草です。
水田の少なくなった今、タネツケバナを路傍に見つけ、今でも薮かげにはムラサキケマンが見られます。
どちらも以前なら雑草と片付けましたが、今は野草に入れたいような気がします。
昔、たくさんあったオドリコソウ(白花)は野草、
今は雑草のヒメオドリコソウ(紫紅花)
が断然多く、どちらもハーブで知られるラミウム属
(Lamium=オドリコソウ属、ホトケノザもこの属)で、
近頃はセイヨウオドリコソウ
(園芸店ではラミウムといい、赤花と黄花があり、
葉に模様がある)が庭からはみ出し、野生化しつつある時代です。
ハルリンドウ、フデリンドウ、イカリソウなど、昔から少なかった野草は、
今ほとんど見られなくなりました。昔どこにでもあったシロツメクサ、オオバコ、ヒメジョオンは、
今では住宅地から離れた田畑の多い所まで出なければ見られません。オオイヌノフグリ
(かたつむり268号)と同じく、
野草と相通じる生態を示すものと思われます。ハルジオンは、いたるところに見られます。
かつては多かったヒメジョオンより生活の場を広げた理由は、いくつかあげることができます。
どちらも越年草(前年芽生えて年を越し翌年春開花結実する)
ですが、ヒメジョオンは、前年夏草が繁ったところにも適応しますが、
ハルジオンは秋に完全除草された裸地を得意とします。無植生状態からスタートする場合、生長が早く、
短期間で開花に達するハルジオンが有利です。もう一つ、ハルジオンは、根から不定芽を出す特性を持つため、
秋に草刈りで一斉に地際から刈り取られたあともしぶとく生き残り、土中に残った根の切断面から再生して、
晩秋から初冬の日ざしで生長し、春には一斉に花を咲かせることができます。
今、私たちの身近に元気良く生育する野生の植物といえば「都市ゲリラ」のような
(強靭な生命力を持ち、再生をくり返し、
短期間で生長するという特性は植物の世界では「過激」)
生活型を持つ雑草に限定されます。こうしてしばしば
(年に数回以上)除草され、
無植生化される場所では、春にはハルジオン、夏にはエノコログサ系の雑草に占有されます。
たまたま、ハルジオンがおいしく食べられるため、「雑草を食べる会」で、みんなで、
実際に採集するさい、いちばんにとりあげる食草になっているわけです。50年ほど前には藤沢のあたりでも、
春には「摘み草」をして食べる習慣があったと聞きます。
ヨメナとハルジオンは近縁で味も似ていると思われます。
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