カンアオイと江の島の成立 | ||
運営委員 鈴 木 照 治 | ||
「江の島は、いつできたのか」については、科学的に「いつ」と特定するのはむずかしく、
およそ5万年前であろうといわれます(「緑の江の島」p126)。
それ以前、およそ6万5千年前に陸化して※
片瀬丘陵の延長で、陸続きであったものが、片瀬海岸のあたり一帯が陥没
(かんぼつ)して、島ができたということです。
伝説では、大昔、天地鳴動とともに海中より突出して島ができたと江の島縁起
(中世に成立)にあるのですが、
これも地殻変動による島の成立を示唆(しさ)しています。
小林政夫先生(藤沢市文化財保護委員)は、以前、神奈川県の第四紀
(160万年前から現在に至る最も新しい地質時代)
について詳しく調べた経験をお持ちで、「みどりの江の島」の本では編集長をされています。
ずっと以前、私が江の島の植物を調べていることを知って、あるとき、
カンアオイの生活型(ライフサイクルを含めた植物の生活様式の大別)は 「半地中植物」※※で、しかも常緑です。 同じ生活型をもつ植物には、ヤブラン、ジャノヒゲのほか、ユキワリソウ (スハマソウとミスミソウの総称)やシュンラン、 エビネなど昔どこにもあったなつかしい山草もふくまれます。 ここで気がつくのは、これらの植物は、 夏緑樹林(落葉広葉樹林、藤沢あたりでは雑木林とケヤキ林がこれにあたる) と常緑樹林(藤沢ではスギ・ヒノキ植林とシイ・タブ林)の両方によく見られる植物であることです。 40年ほど前まで、どこにも見られたのもうなずけます。 これらの植物群は、もともと自然林内では安定群落の縁辺(ガケや崩壊地、涸れ沢斜面上部などの境界) に沿って発達するソデ群落の構成種と推定されます。 そして、常緑であることの利点は、初冬(11月下旬〜12月中旬) と早春(2月中旬〜3月中旬)の光を効果的に利用できることです。 これらの植物群は、雑木林や植林という、 人類の進出によってもたらされた環境がプラスにはたらいて繁栄したものと思われます。二次林には、 マント群落構成種が多く見られますが、これらの半地中植物はソデ群落の植物で、境界植物として、 人類によって変えられた環境の変化にうまく適応して生活の場を広げてきたと想像されます。 しかし、この半世紀の間に、その環境はさらに変化して、もはや生存がむずかしくなったものと考えられます。 近年、半日陰の緑化材料として、ヤブランやジャノヒゲの園芸品が多く使われりようになりましたが、 それ以外の常緑半地中植物をもっと利用できれば、都市緑化の態様もまた豊かなものになると思われます。 もし、江の島にカンアオイを導入したら、半日陰のグリーンベルトなら、まちがいなく生育すると思われます。 ただし、あくまで植え込み材料としてで、自然の生態系を乱さない配慮が必要となります ※ ローム層最下部に小原台軽石層が認められるため。 |