ペラペラヨメナの進出 |
運営委員 鈴 木 照 治 |
ペラペラヨメナという面白い名前の植物が、近頃あちこちで見られるようになりました。
10年ほど前、鎌倉を歩いて、マーガレットを細く小さくしたようなかわいらしい花に出会いました。
初夏の頃で、深く切れ込んだ小さな葉をつけ、
針金のような細い茎の先端に1つずつヒメジョオンに似た花をつけます。
その当時は住宅地に栽培されていました。目新しく感じ、居合わせたその家の人に名前を聞くと、
「源平菊」と教えられました。なるほど、白とうす紅に咲き分ける様は、まさに源氏と平家を思わせます。
よく繁った一部が庭から道まではみ出しているのを見て、少し持ち帰って植えてみました。
すると、たちまちふえて、毎年、長期にわたって花を咲かせます。
今では、他の野草を追いつめないように、春と秋には、ふえすぎた分を大幅に刈り取っています。
半日陰でも良く育ち、少しでも日の当たる石垣のようなところが、草丈も低く、花付きもよいので、
観賞に適します。ロックガーデンの埋め草には最適です。その後、鎌倉(極楽寺)と箱根(湯本)で、
人の植えることのない石垣いちめんに咲くのを見て、完全に野生化した状態と思いました。
最近では、至るところの石垣で、大群落になって咲く様子が見られ、
すっかり日本の都会の環境に適応しているようです。ペラペラヨメナは、
系統的にはヨメナやノコンギクよりも、ヒメジョオンやハルジオンにより近縁とされますが、
それは花(キク科なので頭花)、特に果実の形状からですが、植物体そのものは、
むしろ宿根アスター(白孔雀や東雲菊の仲間)やノコンギクに近い草状です。
普通の庭にこれらの仲間と混植(混ぜて植える)すれば、これらの草の方が上へ伸びて、
ペラペラヨメナは下になり、押されがちですが、消滅することはありません。
一方、石垣やコンクリートのわずかなすきまなどでは、ペラペラヨメナが断然優勢です。
伸びすぎたら、適当な高さに刈りそろえれば、たちまち再生して、いっせいに花を咲かせるという具合で、
とてもタフ(やられてもやられてももりかえすたくましさ)です。
針金のように細い茎は、若いうちは上に伸びますが、途中に何枚かつけた葉の大きさが増し、
葉のわきから枝が分かれて伸びるにつれ、枝先の重みで下の方が横倒しになり、茎が地面にふれると、
そこから根を出して独立し、株がふえます。土に生えた場合、まわりの地面を這うような分枝には、
すでに下に根を生じていますから、そこを含めて採集して来れば、すぐに植えることができます。
新しく伸びた茎の先端に一つ花を付けますが、無数に枝分かれするので、同時に無数の花を付け、
草全体が花で覆われるようになります。花は咲き始めは白ですが、数日たつうちに赤紫色を帯びて来ます。
そのため、草全体を見ると、初夏にいっせいに咲き始める時期以外は、紅、白咲き分けているようです。
ちょうど、スイカヅラの花が白と黄(金銀)に咲き分けているように見えるのと同じです。
この「源平菊」が広まったのは、おそらくこの10年ぐらいの間で、
ちょうど平成になってからといってもいいくらいです。 明治初年に日本に入り、急速に全国に広まったオオアレチノギクやヒメムカシヨモギを当時、 「御一新草」とか「鉄道草」とかよんだそうですが、平成になって各地に広まったペラペラヨメナには 「平成ひな菊」という名がふさわしいような気がします。 ちなみに、明治時代、観賞用に輸入栽培されて全国に広まり、やがて野生化した帰化植物には、 ヒメジョオンやオオマツヨイグサ(通称月見草)を始め、かなり多くの植物がありますが (オオハンゴンソウ、オオキンケイギク、ムラサキカタバミ、ビロウドモウズイカなど)、 これらの多くはヨーロッパか北アメリカが原産地です。 一方、近年新たに日本に入り、帰化定着したと見られる外来植物は、中東、アフリカから南米、 オーストラリアなど、原産地も多様です。そして、その多くは、乾燥する気候に耐えるものです。 ペラペラヨメナより少し前から目に付くようになったヒメツルソバは、今でも園芸店で「ポリゴヌム」の名で、 かわいい鉢植えとして売られています。ペラペラヨメナの鉢植えも見かけました。 この2種に先駆けて野生化したのがノハカタカラクサで30年前には、 つり鉢にしたてて観賞用にしていたものです。 いずれも、この10年ぐらいの間に生活圏を爆発的に増大させています。 これは、私たちの生活する都市環境が、ここ20〜40年の間に、 かなりの変化を遂げたことと無関係ではありません。 先頃訪れた江の島ではノハカタカラクサが至るところの木陰の傾斜地を占領していました。 10年前には1本もなかったと記憶しています。こうした変化は、 植物の世界でも身近なところで静かなたたかいが行われていることを私たちに知らせてくれます。 テレビでは2億年先の未来の密林をサルのように自由にとびまわるイカ、 タコの仲間をコンピュータ画像で見せましたが、その背景の樹林は現在のものを利用していました。 植物の世界も環境の変化にしたがって10年、20年で変化するということを気付いてほしいと思います。 |