彼岸花と秋の訪れ |
運営委員 鈴 木 照 治 |
![]() ![]() 10月2日現在で満開状態です。このあと数日で花が枯れると、 やがて地面から濃緑色の葉がぞくぞく生えて茂みをつくります。 ひと目でそれとわかる特徴のあるこの葉の茂みは、秋の終わりから翌年の初夏まで維持され、 いつのまにかなくなります。「葉見ず花見ず」(葉のあるときは花が見られず、 花のあるときは葉が見られない)とは全国数え切れないほどあるヒガンバナの異名の一つです。 若い頃聞いた年寄りの話に、六十(ロクトー)の十十(ジュットー)というのが秋植え球根の作り方で、 植え付けが10月10日、堀り上げは6月10日がよいというのです。今の園芸書では、 「10月下旬に植え、地上部が枯れたら掘り上げる」と書かれているので、 これだと10日ほど後ろにずれます。これにも、温暖化が影をおとしているのでしょうか。 郊外を歩いていると、昔からある家の庭に、毎年元気よく咲く球根の花を見ることがあります。 庭の一角で、球根をふやしながら長い年月持続させるには、その植物の特性をよく理解することが必要で、 植物を愛する気持ちが伝わって来ます。チューリップやラッパ水仙は、毎年初夏には掘り上げて乾燥し、 夏は涼しいところに貯蔵します。しかし、丈夫なヒガンバナや日本水仙は、 高温多湿の日本の夏に耐えられるので、そのまま数年堀上げずに増殖させることができます。 昔、鎌倉の有名なお寺で、西洋水仙をたくさん咲かせていましたが、その頃は、夏には堀上げて、 雨を避ける北側の軒下に貯えているのを見ました。そうしないと春にきれいに咲きそろわないのです。 今では、植えたまま夏をのりきることのできる日本水仙が初冬から、庭をかざっています。 チューリップやラッパ水仙、それにユリなどは秋に植えても春まで地上に葉を出しません。 しかし、ヒガンバナや日本水仙は秋の終わりに葉をのばし、冬中緑の葉を茂らせます。 この性質は、伝統的な日本の農村をとりまく環境にきわめてよく適合しています。 ![]() ![]() ※ 昔、冷夏の年はイネが不作で米不足となり、多くの人が飢えで苦しみました。食べ物がないとき、 飢えをしのぐために食べたのが、救慌植物(ヤブカンゾウなど)です。 ヒガンバナの球根にはリコリンという猛毒がふくまれるので、そのままではとても食用にはなりませんが、 昔、飢饉で食べがないときには、すりつぶして水にさらし、上澄みを流して、 底に沈んだデンプンをとることを、17回繰り返せば、毒抜きが完了し、のり状の葛湯として食べられる、 四国のあるところでは、今でもこうして団子をつくるということです。水にさらす回数は、なぜ17回なのか、 それは、まちきれずに16回さらしたものを食べて死んだ人がいたという悲しい言い伝えがあるのだそうです。 スズランやスイセンも有毒で、家畜は食べません。 牧場の一角に残って花を咲かせる姿が外国の絵本に出てきます。 一方、日本のヒガンバナは有毒のためか、大人は、小さい子が花を手にするのを嫌って、 縁起の悪い花だと教えます。にもかかわらず、お寺や土手には、きまったように植えられたのは、 万一の飢饉に備えた昔の人の知恵だったようです。 |