3月に、きれいな花を咲かせる外来植物といえば、何を思いうかべますか。
第一に挙げられるのはオオイヌノフグリで、セイヨウタンポポやハナニラは、まだたくさんは咲きません。
ところが、最近目に付くようになったツタバウンランという小さなツル草が、
たくさんの花をつけているのを見つけました。
「追いつめられる野草」というのが、いつも書いている植物シリーズのテーマの一つです。
一つ、また一つとこれまでえ身近だった野草が姿を消していくのと入れ代わりに、
これまで見られなかった外来植物が、いつのまにか根をすえています。
今回紹介するツタバウンランはゴマノハグサ科、花の大きさは同じ科のオオイヌノフグリくらいで、
やはり同じ科のムラサキサギゴケに近いトキワハゼに似ています。
葉はアイビーゼラニウムを豆粒ほどに小さくしたようなとてもかわいらしいつる草です。
原産地は南ヨーロッパのイベリア地方、現地では石垣を覆う草として知られます。
野草の衰退と、外来植物の進出には、都市環境の変質が大きな役割を果たしています。
少し以前まで多かった雑草に覆われた裸地に換わって、道はほとんど舗装され、
小規模化した住宅の庭は、コンクリトやタイルで覆いつくされるようになり、ナズナ、ハコベ、
スズメノカタビラなど、おなじみの春の雑草も、遠くなった農地に足を運ばないと観察しにくくなりました。
以前であれば、耕作や除草で新しくできた裸地は、あまり時をおかずに草が生え、降った雨水は地面に吸われ、
一部は植物の根に吸い上げられて葉が蒸散し、空気中に水分を出すので、適度の湿気が保たれていましたが、
今の都会地では、雨水がたちまち流れ去って、翌日にはまた乾燥した状態に戻ります。
以前なら鉢植えは、庭の草地に出しておけば水やりの手間をはぶけたものですが、
近頃はこまめに水遣りをしないと丈夫な草花も乾燥しすぎて枯れてしまいます。昔読んだ植物生態学者の本に、
「墓場の環境は、岩石砂漠に似ている」という表現があって、なるほどと思った記憶があります。
現在の住宅地の状態は、
植物にとって極めて乾燥しやすい岩石砂漠に類似した環境に変わってしまったと想像されます。
私の家の近くで見つけたツタバウンランは、草に覆われた空き地とコンクリートの建物、
アスファルトの道路面の三者に囲まれた小さな積石の石垣に生育していました。
ワインで知られる南欧内陸部の乾燥する冬の石垣を想像しました。
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