夏季活動でオオトチ沢を歩いているとき、藤沢とは少しちがった感じのするキイチゴがありました。
キイチゴというより、カジイチゴ風の葉でありながら、
バラのように鋭いトゲを枝にたくさんつけています。藤沢や東京など関東南部のキイチゴは、
正確にはナガバモミジイチゴといって、葉先が長く突き出ているのですが、
埼玉や群馬あたりの関東山地では、葉が長くなく、モミジの葉のように見えるものもあって、
文字通りのモミジイチゴになります。基準になる東大植物園(小石川)の標本植物園のものよりも、
群馬県碓氷峠で見たものや、埼玉県青梅に近い塩船観音で見たものの方が、
ほんとうにモミジの葉に似ていました。ところが、オオトチ沢で見たものは、形はモミジイチゴですが、
カジノキの葉にそっくりの平行に走る葉脈で、感じがまるでちがいます。
ちょうど、エノシマイチゴ(トゲナシカジイチゴ-=カジイチゴとモミジイチゴの間種)
の感じで、しかも、トゲいっぱいですから、トゲツキカジイチゴとでも名づけたくなります。
カジイチゴは、江の島の崖を含む急斜面のいたるところに自生しています。藤沢市内では、
自然が少なくなるとともに、次第に姿を消しましたが、古い人家の植え込みに、まだ生き残っています。
何しろ「和製ラズベリー」として、十分通用する便利さがありますから、残してあるのでしょう。
ただし、欧米原産である栽培品のラズベリーに比べて、この野生品は、条件のよくないところでは、
一向に実をつけてくれません。日がよく当たり、水はけがよいところなら、丈夫でよく育ちますから、
実もなります。鉢植えでも、楽しめます。海から離れた藤沢市内では、ナガバモミジイチゴが、
カジイチゴより多く見られます。トゲだらけですが、初夏に橙色に熟する実はとてもおいしいので、
昔の子供は、特に好んだものです。
エノシマイチゴについては、別稿に譲ります。かねてから私は、
江の島に自生するカジイチゴとナガバモミジイチゴとが、同じキイチゴとはいうものの、
全くちがうイメージであるにもかかわらず、雑種ができるほど近縁であることに、
素朴な疑問をもっていましたが、このオオトチ沢のモモジイチゴを見て、なるほどモミジイチゴにも、
カジイチゴに似たタイプもあるので、「やはり近縁であることに間違いはない……」
と納得できる気になりました。
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