このレポートは、かたつむりNo.290[2006(平成18)10.15(Sun.)]に掲載されました

戻る

モミジイチゴの変異
運営委員 鈴 木 照 治
 
モミジイチゴ オオトチ沢
■モミジイチゴ オオトチ沢
 
カジイチゴ 長久保公園
■カジイチゴ 長久保公園
 
カジイチゴ 観音崎
■カジイチゴ 観音崎
 夏季活動でオオトチ沢を歩いているとき、藤沢とは少しちがった感じのするキイチゴがありました。 キイチゴというより、カジイチゴ風の葉でありながら、 バラのように鋭いトゲを枝にたくさんつけています。藤沢や東京など関東南部のキイチゴは、 正確にはナガバモミジイチゴといって、葉先が長く突き出ているのですが、 埼玉や群馬あたりの関東山地では、葉が長くなく、モミジの葉のように見えるものもあって、 文字通りのモミジイチゴになります。基準になる東大植物園(小石川)の標本植物園のものよりも、 群馬県碓氷峠で見たものや、埼玉県青梅に近い塩船観音で見たものの方が、 ほんとうにモミジの葉に似ていました。ところが、オオトチ沢で見たものは、形はモミジイチゴですが、 カジノキの葉にそっくりの平行に走る葉脈で、感じがまるでちがいます。 ちょうど、エノシマイチゴ(トゲナシカジイチゴ-=カジイチゴとモミジイチゴの間種) の感じで、しかも、トゲいっぱいですから、トゲツキカジイチゴとでも名づけたくなります。 カジイチゴは、江の島の崖を含む急斜面のいたるところに自生しています。藤沢市内では、 自然が少なくなるとともに、次第に姿を消しましたが、古い人家の植え込みに、まだ生き残っています。 何しろ「和製ラズベリー」として、十分通用する便利さがありますから、残してあるのでしょう。 ただし、欧米原産である栽培品のラズベリーに比べて、この野生品は、条件のよくないところでは、 一向に実をつけてくれません。日がよく当たり、水はけがよいところなら、丈夫でよく育ちますから、 実もなります。鉢植えでも、楽しめます。海から離れた藤沢市内では、ナガバモミジイチゴが、 カジイチゴより多く見られます。トゲだらけですが、初夏に橙色に熟する実はとてもおいしいので、 昔の子供は、特に好んだものです。
 エノシマイチゴについては、別稿に譲ります。かねてから私は、 江の島に自生するカジイチゴとナガバモミジイチゴとが、同じキイチゴとはいうものの、 全くちがうイメージであるにもかかわらず、雑種ができるほど近縁であることに、 素朴な疑問をもっていましたが、このオオトチ沢のモモジイチゴを見て、なるほどモミジイチゴにも、 カジイチゴに似たタイプもあるので、「やはり近縁であることに間違いはない……」 と納得できる気になりました。

ナカバモミジイチゴ 湘南台 モミジイチゴ 小石川 ナカバモミジイチゴ 小石川
■ナカバモミジイチゴ 湘南台 ■モミジイチゴ 小石川 ■ナカバモミジイチゴ 小石川
 
モミジイチゴ 塩船観音 エノシマイチゴ 江の島  
■モミジイチゴ 塩船観音 ■エノシマイチゴ 江の島  

戻る