身近な極限地植物 | ||||||||
運営委員 鈴 木 照 治 | ||||||||
「一日目の午後、荒川上流の長瀞で、砂金の採集を試みました。船着き場近くの、
砂と小石の混じった広い河原は、植物の生えない砂漠のような状態です。
しかし、水辺から1mほどのところに、オオイヌタデが元気よく育っていました。
庭や畑の路傍に見られるイヌタデ(通称アカノマンマ)よりずっと大ぶりで、花の白いのが特徴です。
河原は、たびたび起こる洪水によって土砂が押し流され、堆積を繰り返します。
そのたびに生えていた植物は失われ、新しい裸地ができますが、
そこに最初に生えて群落をつくるのがオオイヌタデです。」
オオイヌタデの属するタデ属(Polygonum Gen.)は、 非常に変化に富んだ多くの種を含む属ですが、 この中で「○○タデ」と呼ばれるタデ類 (細分化された属名 Persicaria が使われることもあります)の多くは、 裸地と草地の境界を好んで群落をつくる短期1年草です。 いわば、緑地を植物の側から見れば、裸地に対する最前線を形成する植物群です。 川のほか、増減水を繰り返す淡水面(池、沼、湖)の砂の堆積する岸辺には、 オオイヌタデの群落が形成されます。
タデ科全体がわかりやすい特徴をもった、まとまりのあるグループで、 総状花序(多数の花が穂になってつく)、花びらを欠き花の役目をしている五深裂したガク、 5本以下のおしべ、1個のめしべ(1つの花から1つの種子をもつ1つの果実ができる)という、 原始性をもちながら、進化の先端をも行くという面白さをもつ植物グループです。 イネ科やキク科(ラン科は別として)とともに、 新生代第四期の地球環境によく適応したと思われるタデ科の植物、 庭すみに出てくるイヌタデの花をママゴト遊びの「お赤飯」に見立てた昔の子供たちのように、 身近な植物にもっと親しみをもってほしいと願うものです。 近頃は、「ポリゴヌム」の園芸名でかわいい金平糖のようなピンクの花を多数つける 草丈10cmにも満たない草花の鉢植えが店売りされ、丈夫なため、あちこちの庭先に根付いている 「ヒメツルソバ」というタデ属外来種を、街中でよく見かけます。 タデ類中、もっとも身近なイヌタデも、 オオイヌタデとは別の立地(環境も含めた植物の生育地)での極限地植物といえます。 それは、耕作地など撹乱(かきまわす)された土地と周辺の草地との境界に生活の場を持つからです。 庭先や空き地など、数ヶ月おきに除草されるところによく見られます。 たびたび耕される畑の中や、初夏の除草後、直射日光で乾燥の激しいところには別の植物が生えますが、 適度の水分が保たれるところに、このイヌタデが群落をつくります。 毎日水やりの行われる花壇の中のすき間や、周辺の裸地などは、 イヌタデがもっとも得意とする環境です。 10月活動で観察したハナタデは、イヌタデとちがい、白っぽい花をまばらにつけます。 ハナタデの花はほとんど白に近いピンクで花穂の花と花の間にすき間がありますが、 イヌタデの花はほとんど濃い紅色で花穂にゴマ粒のような花がすき間なくぎっしりとつきます。 さらに、ハナタデの生える場所は、空の半分が見える高い木の下で、しかも草地と裸地との境 (雨が降ると地面を水が流れるという、ほかの植物が嫌う場所)という注文の多い場所です。 皆さんもタデを見つけたら、何タデか見てやって、 ついでにその植物のつけた注文も聞いてやってください。 |