近頃の住宅地ではガーデニングを楽しむ家が増え、冬でも花を咲かせる園芸植物も豊富になって、
冬に花を見ることが当たり前のようになりましたが、20年ほど前までは、花屋の店先か、
屋内の花を飾る場所でなければ、冬に花を見ることはありませんでした。
昔から日本に自生する植物で、冬に花を咲かせる植物といえば、
木へんに冬と書く柊(ヒイラギ)かサザンカを思い浮かべますが、
どちらも開花期は11月からになります。
寒椿(カンツバキ=サザンカの一種)は12月に、ヤツデも11〜12月に咲きますが、
これらはいずれもこの時期に訪れる「小春日和」
に出てくるコン虫を花粉の運び手として実を結ばせると想像することができます。
やがてきびしい冬が来ると、日本に野生する植物で開花するものはなくなります。
早咲きの梅や沖縄のカンヒザクラが1月に咲くといっても、それは、中国南部から伝わった、
いわば外来植物です。2月になって、陽だまりのできる穏やかな晴天が訪れるようになると、
スミレ、マンサク、サンシュユなどが咲きますが、真冬の間は、花を見ることができません。
では、まったく花が咲いていないのかというと、そういうわけではありません。
以前、「かたつむり272号」で紹介したカンアオイ(カントウカンアオイ)
の花は初冬から初春まで寒い冬の間、ずっと咲き続けているのです
(少なくとも学の浅い私にはそう見えるのです)。
しかし、普通に山野を歩いているだけでは、その花を見ることはできません。
まず、カンアオイを見つけるために雑木林を分け入って、
落ち葉の間に数枚の葉をのぞかせたカンアオイを見つけたら、まわりの落ち葉をそっとどけて、
株本(葉柄のつけ根)を見ると、成長した株ならたいてい花が見られます(あとで落葉をもどす)。
花といっても花弁(花びら)はなく、下半分が丸いつぼ状で、
先が三つに分かれて平開するガクは紫褐色の渋い花です。
草全体の割には大きな花(直径1.5cm)で、
花期も長いことから、鉢植えにして観賞する人もいるようです。
丈夫で栽培しやすいので、江戸時代から栽培され、中には野生しない園芸品もあるようです。
藤沢近辺で見られるカンアオイの仲間はタマノカンアオイがありますが、これは春に開花します。
日本植物誌によれば、日本全国にはいろいろなカンアオイが自生しますがほとんどは春が開花期です。
冬咲きなのは、近畿、東海、関東にかけてのカンアオイと同系統と仲間のほかは屋久島にあるだけです。
以前、江ノ島では、カンアオイが見つかっていないと書きましたが(かたつむり272号)、
カンアオイという種が生まれて、藤沢近くまで進出したのは、他の生物より遅く、
私たち人類の祖先がこのあたりにやってきたのとほぼ同じ数万年前と想像されます。
そのとき江ノ島は、もう、島になっていて、
カンアオイが渡れなかったのだというのが小林先生の説明でした。
カンアオイの名は、冬に花を咲かせることによります。日本の冬の自然の中にも、
それぞれの土地によって微妙な環境の違いがあります。
どのような環境に適応しているのか、よりによって寒い冬のさなかに花を咲かせるのは、
じつに不思議というよりほかはありません。皆さんは、真冬に花を咲かせるメリットはどこにあるのか、
カンアオイに代わって説明してみませんか。
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