冬に花を見ることの少なかった20年ほど前の話です。
その頃、片瀬中学校の中庭には、1本のビワの木がありました。
かなりの大きさで、初夏になると、たくさん実が成りました。
誰が植えたものかわからず、果肉の薄いことから、
種から芽生えて自然に大きくなったとも考えられます。
誰も実をとって食べようとはしませんでした。ビワの花は冬咲きです。
かたつむりの前月号に、「日本の野生植物で、冬のさなかに花を咲かせるものはない。」
と書きましたが、カンアオイのほかに、ビワも例外といえるでしょう。
しかし、ビワが自生するのは暖流(黒潮、対馬海流)の洗う、冬に温暖な海岸地域に限られます。
藤沢でも冬季温暖な片瀬は、ビワの生育に適しているものと思われます。
ビワの開花が始まるのは、ヒイラギ、サザンカ、ヤツデより少し遅れて、12月になってからです。
花に虫がやってくるようには見えませんが、ちゃんと実が成るのですから、
きっと誰も気づかないうちに、虫が花粉を運んでいるのでしょう。
果物としてのビワの産地は、千葉県と長崎県で、冬でもツバキの花が咲くような暖かいところです。
ビワの実には、大きなタネが二つ三つ入っています。ほとんどの木の種子は、
蒔いた年には芽生えませんが、ビワの種子は例外で、野菜や草花の種子と同じで、
蒔いた年に芽生えます。藤沢ならどこでもよく育ちますが、実を成らせるには少し温度不足のようです。
「木の種で、蒔いた年に芽生えるのは、他にあるのだろうか」、また、「熱帯の木ではどうなのか」、
さらに、「翌年にならないと芽生えない木の種子を、
蒔いた年内に芽生えさせる方法があるのだろうか」、
答えを知るすべもない疑問が、つぎつぎと頭に浮かんで来ます。
せめて、「花粉がどのようにして運ばれるのか」をつきとめることができればと思っています。
2006年に聞いたニュースで、「種無しビワができた」とテレビで放送されました。
苗の発売は数年先になるとのことですが、種無しビワの実そのものは一部の地区では、
売り出すくらい生産されるようになったということで、いずれ店にも出回ることでしょう。
ビワの花の咲き始めは、ふつう12月になってすぐですが、近頃はどうやら、少し遅く、
1月まで花が見られるようです。片瀬には、ほかにもビワの木があると思うので、
1月にどのくらい花が見られるか、調べてみたいと思います。
サザンカの花が正月を飾り、ヤツデやヒイラギの花も遅くまで咲いていたこの冬です。
ビワもサザンカも、もともと西国暖地起源で、
栽培されてこのあたりにも広まったもので暖かい地域では、
冬のさなかにも開花する性質があるのでしょう。
寒い正月には外に出て、冬に咲く花を探しながら、
暖冬を実感するのも勉強の一つかなと思うしだいです。
正月にはロウバイが咲きますが、これは、中国原産です。
以前、トウシャジンのことを書きましたが
(かたつむり288号)、1月3日に1輪だけ花をつけました。
正月に咲く太郎冠者という椿も中国原産といわれています。
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