春になると、野山は明るい緑につつまれます。
このような自然の変化は、ずっと昔から繰り返されてきたものだとだれも疑いませんが、
半世紀前と今とでは、かなり様子が変わっていると思われます。
その頃と今とでは身のまわりの環境がすっかり変わると同時に
身近な植物の種類が大幅に入れ替わっているからです。
例えば、今、身のまわりの草地にいちばん多いハルジオンは、
50年前にはヒメジョオンばかりが目立って、
探さないと見つからないくらいであったと記憶しています。
タンポポも、今はセイヨウタンポポばかりですが、昔はほとんどがカントウタンポポでした。
変わってきたと感じ始めたのは40年ほど前、家の庭をなんとなく眺めていたときです。
季節は秋でしたが、早春に咲くべきスズメノカタビラが咲いていたのです。
そのとき思い当たったのは、それより何年か前、西洋芝の種を買って庭に蒔いたことでした。
その中に、外国産のスズメノカタビラが入っていて、それが秋に花(穂)をつけたのだと思いました。
そのうちよく見ると、自分の家だけでなく、街中ではときどき秋に咲くのを見るようになり、
このことを雑草を研究している先生に話してみたのですが、あまり興味を示してもらえませんでした。
昔の野山では珍しかったこの現象も、今では、
秋の暖かい日差しを受けてスズメノカタビラが咲いているのを見ることはそうむずかしくはありません。
昔、農業とともに日本に住み着いたスズメノカタビラは、秋に芽生えると、
初冬や早春の暖かい日差しを受けて分けつ(根本から枝分かれして株立ちの本数がふえること)
を繰り返して株を大きくし、本格的な春になると1株から多数の穂を出して花を咲かせます。
4月から5月にかけ、早くも成熟したごく微小な種子は、あたり一面にとび散りますが、
5月後半から9月半ばまでは芽生えることはなく、秋の低温のしげきによってようやく芽生え、
次世代の生活が始まります。
一方、近年の都市環境に適応した新しいタイプのスズメノカタビラ(外来系?)は、
秋に芽生えた個体が、株があまり大きくならなくても、短日条件下でも、
1〜数本の穂を出して秋のうちから花を咲かせます。
寒い冬を目前にひかえ、それでも種ができるのか、
それとも枯れずに株が冬をこすのか肝心なところはまだ確かめていません。
皆さんはどう思いますか。
このように、春に生い茂る雑草(ムギに代表される冬緑型の短期一年草)の中には必ずしも長日性
(春のように日が長くなる条件の下に花をつける性質、ナズナが代表)
のものばかりではないということがわかります。
そうでなければ2月のかたつむりに書いたように、
いくら暖冬とはいえ伊豆で1月に野草が開花するなど説明できません。
このように、春の訪れは、年によってさまざまであることを、
雑草たちが示すさまざまな育ち方からもわかるというわけです。
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