今年も6月に江ノ島で野外活動をすることになりました。
先日、江ノ島に行く機会があり、ふだん行かない西浦へ行きました。
墓地にある急な石段を登るとき、
目の前のガケの岩の上に叢生(ソウセイ=くさむら状に生える)するスゲに、
多数の穂が出ているのが目にとまりました。
3月19日というこの時期に穂を出す常緑のスゲは一体何スゲなのだろうと興味を覚えたのです。
ふだん、野山を歩いていると、どこへ行っても必ずスゲに出会います。
でも、「ああ、スゲも生えているな」というぐらいの意識しか持ちませんでした。
それというのも、スゲの仲間(スゲ属:Carex,Gen.)は大所帯で全世界に数百種、
このあたりでも数十種もあるうえ、どれも似たような草姿で、穂が出ていれば、
それを頼りに検索するという、植物研究者にとってやっかいな存在であるため、
私も敬遠して初歩的な勉強さえ怠ってきたわけです。
さっそく写真にとり、家に帰ってマキノ植物図鑑を見ると、
オニヒゲスゲというのにピッタリと一致しました。
これを日本植物誌で見ると、ヒゲスゲとなっていて学名も少し違っていました。
マキノでは「ヒゲスゲ」は小笠原島産のものにつけられた名で、
本州のものには「オニヒゲスゲ」と命名された旨が記されています。
例によって、私の家の本は数十年前のものですから、図書館で、
現行の(それでも十数年前の)図鑑を見なければならなくなりました(教文センターにはないのです)。
ちなみに、「緑の江の島」の本には、のっていません。
もちろん、私の見る限り、江の島のヒゲスゲを記載した文献はありません。
ところが先日、高山先生から写真を見せられ、
「女性センターのあたりの岩場に群生していますが、何でしょう」と聞かれたのですが、
「わかりません、海岸にはヒトモトススキが群生することがあり、
瓦礫(がれき)地にはアブラシバが生えますが、現場を調べてみましょう。」と言い逃れました。
ヒゲスゲの開花期は4〜6月となっています。
3月に穂を出しているのを見ると、他の種類かとも思われますし、
他の野草と同様、暖冬(地球温暖化)の影響なのかもしれません。
- 植物誌:ヒゲスゲ Carex Boottiana (Hook et Arn.)Kukenth.
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牧野図鑑:オニヒゲスゲ Carex oahuensis C.A.May var. Boottiana Kuek.
forma robusta Makino
学名から想像すると、ヒゲスゲはハワイや小笠原に近似種もしくは母種を持つ、
変わった素性のスゲだというわけです。
江の島を調べに来た多くの人たちの目に留まることなく、
いつの頃から海を見下ろす岩の上に住み着いたのでしょうか、
こんなスゲが生育する江の島は、植物の生態を見る貴重な場所であることを再確認する次第です。
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