このレポートは、かたつむりNo.305[2007(平成19)10.21]に掲載されました[2008/12/20改訂]

戻る

−ハチジョウススキ−
運営委員 鈴 木 照 治
 
ハチジョウススキ/江ノ島 9月
ハチジョウススキ/江ノ島 9月
ススキ/庭植 10月
ススキ/庭植 10月
オギ/三ツ池 11月
オギ/三ツ池 11月
ハチジョウススキ葉裏
ハチジョウススキ葉裏
ススキ葉裏
ススキ葉裏
オギ葉裏
オギ葉裏
ハチジョウススキ 10月
ハチジョウススキ 10月
オギ 10月
オギ 10月
冬の状態/江ノ島山二つ
冬の状態/江ノ島山二つ
ハチジョウススキ花穂
ハチジョウススキ花穂
江ノ島「山二つ」の石段から海を見下ろすと、そのあたりのガケは一面のススキに覆われています。 「これはススキとは別の種類のハチジョウススキです」と説明すると少しびっくりされます。 冬でしたら「このススキはちょっと違うでしょう」と水を向ければ気が付く人もいます。 ススキとちがって冬も緑だからすぐわかります。 また、秋には銀鼠色の穂を出すススキとちがってベージュがかった白っぽい穂を出す点も見分ける手がかりになるでしょう。 一般的な見分け方は葉の巾です。ススキは2cm以内なのに対して、ハチジョウススキは2.5cm以上ある点です。 もう一つ、ススキの葉の裏は、表より色がうすいだけなのに、ハチジョウススキの葉の裏は、 粉をふいたように白味をおびているのも区別点です。 石段の道の山側を見上げると、植物園側の急斜面にはふつうのススキも生えているようで、この二種を見比べることができます。 中には厳密に区別できない個体もあるので、ハチジョウススキをススキの変種とする説も有力です。 また、エノシマススキというのが、その間種であるともいわれます。 「みどりの江の島」の本には、エノシマススキの項があり、ハチジョウススキとススキの雑種であると書いてあります。 山二つのあたりで、この二者が接して自生しており、中間型があるのかもしれませんが、 いつも通りかかるたびに見上げるくらいでは、これこそ中間型だといえるような個体を発見することはできませんでした。 私の記憶に間違いがなければ、ずっと以前は、山二つの道から見上げるガケに生えていたのは、 全部ハチジョウススキではなかったかと思います。 しかし、今、見上げて目に入るのは、ほとんどふつうのススキのようにも見えます。 道の石垣の上縁ぞいにハチジョウススキかと思われるものもあるようですが、くわしく確かめてはいません。 以前撮った写真を見ると、S.C苑ができるころ、斜面を整備して、一斉に刈り込んだことがあって、そのときを境に、 ハチジョウススキからススキに入れかわったようで、その上、それまであったハマカンゾウやスカシユリもなくなってしまいました。 最近冬に撮った写真では、道路から上のガケに生えているのは全部冬に葉の枯れるふつうのススキのように見えます。 私の見る限り、江の島では、年々ススキの方が優勢になりつつあるように思えます。 これは、刈り取りなど人為の影響かと思われます。 女性センターの裏には、他の海岸植物と同様、ハチジョウススキが道端に進出しています。 冬にどうなっているか確認する必要がありそうです。
また、この二者は、開花期、即ち穂の出る時期もやや異なり、ススキの9〜10月に対してハチジョウススキの方が早くて8〜9月です。 いつも緑の葉を茂らせているからでしょうか、私は春4月に穂を出したのを、この目で確かに見て、写真に撮ったこともあります。
 ハチジョウススキは、海沿いのガケが主な自生地で、ススキは、内陸部のガケに生えます。どちらも全国に分布します。 あるサスペンスドラマで、ハチジョウススキが京都南部のある特定の場所に生えているという設定がなされていて、 それが謎を解くカギとされました。 昔の人もハチジョウススキがススキと違うことを知っていて、江戸時代に植栽され、不連続な分布をしているということも否定はできません。 ハチジョウススキとススキの関係は、前にお話したことのあるオニヤブソテツとヤブソテツに似ているので、オニヤブソテツと同様、 ハチジョウススキも東京(江戸)に自生していたと考えられるからです。
 実際、ススキ属にはよく似たオギがあります。一般の人々にはススキとオギは区別されずに扱われて来ているようです。 よく知られている昔の流行歌に「おれは河原の枯れススキ……」というのがありますが、実際、河原に行って見ると、 生えているのはオギばかりで、ススキを探してもなかなか見つかりません。やっと見つけたとしても、 そこは土手の上か護岸の石積みの隙間で、近くでも本当の河原とは言いがたい場所です。 ススキとオギとは非常によく似ているので、葉と穂を見ただけでは並べてみても区別がつかないほどです。 明らかに違っている点が3つあります。1つは、小穂についた1つの花をとって見ると、 ススキには2本の芒(ノギ)がつき出ているのに対し、オギは羽毛ばかりで突き出るノギはありません。 2つ目の相違点は、オギは稈(カン=草質の硬い茎)が立ってそこから数枚の葉が交互に出ますが、 ススキでは稈から出る葉は花穂の下の1枚ほどで、ほとんどの葉は根元から出ています。 3つ目に、オギは地面から1本、1本、別々に稈を出しますが、ススキは一ヵ所から多数の稈(茎)が叢生 (ソウセイ、草むらになって生える)します。 この3つの違いをおさえていれば、遠くからでも、近くでも、手にとって見てもすぐに区別ができます。 本来の群生地は、ススキは山、オギは河原ですが、どちらも造成された空き地や道路わきに生えるので、 よく見て区別してみると面白いでしょう。
 もう一つ、よく似たトキワススキというのがあります。分布している地域は伊豆より南になりますから、 江の島を含め、県内には存在しないと思われます。 もしあっても、穂の形がススキやオギと違って、キビのように円錐形になるので区別は容易でしょう。



ススキ   Miscanthus sinensis Anderss.
ハチジョウススキ   Miscanthus sinensis Anderss. var.condensatus (Hack.)Makino
オギ   M. sacchariflorus (Maxim.)Benth.
トキワススキ   M. floridulus (Labill.)Warb.



戻る