このレポートは、かたつむりNo.307[2007(平成19)12.9]に掲載されました[2008/12/20改訂]

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江の島のオリヅルシダ、絶滅のおそれ
運営委員 鈴 木 照 治
 
オリヅルシダ
オリヅルシダ
オリヅルシダ
オリヅルシダ
オリヅルシダ/最近は別種が混じっている
オリヅルシダ/最近は別種が混じっている
ランナーの葉(右)
ランナーの葉(右)
オリヅルシダ/台風の前
オリヅルシダ/台風の前
オリヅルシダ/台風の後
オリヅルシダ/台風の後
学生時代、植物実習で江の島に行くことになり、そこで見られるという珍しい植物として、オリヅルシダがあげられました。 このシダは暖地性で無性繁殖のしかたが変わっています。葉の中軸が細長く蔓のようにのびて、その先端に子株を生じ、 伝統折り紙の羽先に子鶴のつながった折鶴を思わせるのでこの名があるというのです。
 いよいよ当日、珍しいオリヅルシダがどんなところに生えているのか、楽しみにしながら当時有料だった江の島弁天橋をわたりました。 朱塗りの鳥居をくぐり、明治時代にできた今より狭い急な石段をのぼると目の前に絶壁が立ちふさがり(瑞心門はなかった)、 あたりはうすぐらく大木の茂った密林の中でした。 せまい踊り場に立って、絶壁を見上げると、その崖の表面にビッシリと茂っていたのが、オリヅルシダでした。 葉は一回羽状複葉、つやのある濃緑色で、小葉に浅い鋸歯をもち、まるで図案から抜け出たような端正な姿に感動すらおぼえました。 よく見るといくつかの葉は全体が細長くのび、葉の先がさらに2〜30cmもつるのようにのびて、 地にふれたところに小さな子株ができていました。今その場所はすっかり変わって、立派な石段を上って瑞心門をくぐると、 正面は近年造られた大きな弁財天のレリーフになっていて、とても植物の生えられる場所ではなくなっています。
 その後、あちこちの暖地を訪れる機会はたびたびありましたが、オリヅルシダを見ることはありませんでした。 1990年、藤沢市の文化財調査で、江の島全体をくまなく調べる機会があって、生き残ったオリヅルシダの群落があることがわかりました。 県立博物館の調査でも分布が確認されています。 ただ、私が見たのは1ヶ所、しかも小面積の群落なので、下手をすれば全滅のおそれもあるので気がかりです。 ほかにも何ヶ所か自生地があればよいのですが、大事にしたいものです。
 早春の果物の王様といえば「イチゴ」ですが、このイチゴはランナー(匍匐枝)というツルの先に子苗を生じて殖えます。 オリヅルランやユキノシタなど似たような殖えかたをする植物は多く知られますが、葉の先がのびて子株を生じるという、 面白い無性繁殖の仕方は、クモノスシダやツルデンダなど数種類のシダ植物にしか見られません。 昔の植物学の教科書にも、特殊な例としてあげられていたように記憶しています。 進化の上で、葉が茎に由来することを示す例になるのだそうです。 ちなみにクモノスシダは暖地性で伊豆浄蓮の滝の特産種、ツルデンダは石灰質を含んだ岩のがけに生える、 これまた稀少種類で、横浜南部の洗井沢で見たことがあります。
 オリヅルシダそのものは、西南日本に広く分布し、それほどめずらしくはないようですが、 関東近辺では、房総半島の南部あたりが最北端のようで、やはり江の島は貴重な自生地ではないかと思われます。 何年か前の台風で、江の島の大木が何本も損傷しましたが、その後、瑞心門付近の大木は風に倒れないよう大枝を伐ったため、 オリヅルシダの生えているがけに日がさすようになり、雑食性の強い他のシダや多年草が侵入して、 オリヅルシダを覆い隠してしまいました。日陰に耐えるシダなので、すぐには枯れないと思いますが、 しだいに追いつめられてなくなっていくのではないかと心配です。何とか存続できないものでしょうか。
ツルデンダの立て札 ツルデンダ
ツルデンダの立て札 ツルデンダ
↑ツルデンダの立て札の文字:
紀に、浅い海でたい積してできた地層を見ることができます。砂(さ)・礫岩層(れきがんそう)と シルト岩層が交互に重なり、しみ通ってきた地下水がしたたり落ちています。 真冬には大きなつららになることもあります。
 このような場所には、コケ類・シダ類をはじめ、湿った環境を好む独特の植物群落が発達します。 たれ下がった葉のシダはヤブソテツ。 崖に張りつくように、放射状に葉を広げているやや小さなシダは、ツルデンダといいます。




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