ホソバカナワラビ | ||||||||||||||||||
運営委員 鈴 木 照 治 | ||||||||||||||||||
今年の6月には「江の島の自然と文化」をめぐって野外活動をしました。
その中で、一般の人が行かない「知る人ぞ知る江の島の秘境」を訪ねる課題がありました。
ホソバカナワラビは、シイ林の中でも、もっともシイ林らしい場所に生えます。常緑樹林にはタブノキもケヤキも生えますが、 そういうところにはホソバカナワラビはありません。江の島で言うと、青銅の鳥居から参道を通り、赤い鳥居をくぐると目の前に樹林がせまります。 ここはちょうど、白菜の葉を一枚はがして置いたようなくぼんだ地形で、谷の中心に当たり、タブノキやケヤキが今でも見られます。 ここでホソバカナワラビを探すのは見当はずれで、左手ガマ石の上か、右手の福石周辺より上は生育できそうですが、見つかりません。 島内でもっと規模の大きい群落は、島上部の台地上に成立するはずですが、残念ながら台地上の平地は古くから開かれて、 自然状態の所はありません。海に向かって尾根状に突き出た斜面の上部に残るわずかの自然林、奥津宮の社殿うしろの樹林に入ると、 かなり広い面積のホソバカナワラビ群落に出会います。もちろん、上を覆っているのはスダジイの大木です。 ホソバカナワラビは、地下茎が横走することにより繁殖しますから、適地にいったん根をおろせば、 その周辺に広がって、容易に群落を形成するものと考えられます。 ただ、こうした適度に乾燥する状態が安定して保たれるような自然林は、現在極めて限られた場所にしか残っていないようです。 神奈川県内、あるいは伊豆や房総でも、今日、自然林として保護されている場所は、 造成、開発の行われにくい海辺や深い山中の入り組んだ陸地に限られ、ホソバカナワラビ−スダジイ群集の典型的な林分(実在する樹林)は、 簡単に見られるところは少ないのです。江の島のホソバカナワラビ群落は、小規模、断片的ではありますが、以上述べた理由で、 今や貴重な存在になっているのです。 ホソバカナワラビは、リョウメンシダと同属ですが、ホソバカナワラビの根茎は地下を長く横走し、葉は一枚一枚、 たがいに離れて地面から出ているのに対し、リョウメンシダの根茎は斜上して短く地表を這う点が違います。 どちらも群生して林床を占有するのが目立つ特徴です。 いずれも昼なお薄暗い常緑樹林に覆われた立地を生育場所とするため、耐陰性(他の植物よりも少量の光で生活できる特性) にすぐれています。わずかでも自然の破壊された場所ではアズマネザサなどの常緑多年草が生育するので、 現在、多くのシイ林が部分的にも破壊を受けている状態ですから、ホソバカナワラビを伴うシイ林は最も自然に近い樹林ということができます。 関東南部の常緑林は、丘陵部はシイ林、谷沿いと沖積低地はタブ林です。 その林内を見ると、土壌水分の多い沢筋(谷斜面の中ほどから下)や谷底から広い沖積低地にかけては林冠はタブで、 林床にはイノデやリョウメンシダが密生します。
ホソバカナワラビと違う点は、根茎が短く横走するため、隣り合った葉が重なり合います。 どちらのカナワラビも、暗く茂った常緑樹林の林床に生活するに十分な耐陰性をもっています。 そのため、アズマネザサ(江の島では見つからず、タイミンチクがまばらに生えています) その他の草原性の多年草の侵入を許しません(ササ類が林床に侵入するのは、森林が損傷を受けていることを意味します)。 昔の人は林床に生えるシダの種類によってそこに適した植林樹種を選定していました。 ホソバカナワラビは適地では丈夫でよく殖える性質をもっているので、江の島の台地上、 特に植物園の樹林内では下草として復元可能と思われます。 栽培、繁殖方法を研究してみる価値があると思います。 |
関東東海沿いの丘陵部に広がるシイ(スダジイ)を主とした常緑樹林は、ホソバカナワラビ−スダジイ群集という群落名で記載されています。 この群集(植物社会学上、種に相当する群落の基本単位)の標徴種(その群落に最も結びつきの深い、いわばシンボルとなるような植物)