江の島に残るテリハノイバラ | ||||||||||||||||||||
運営委員 鈴 木 照 治 | ||||||||||||||||||||
Rosa Wichuraiana Crep. (R. Luciae var. yokosucensis Franch. et Savat.) 学生時代、この学名を読み間違えてウクライナ地方のバラと思い込み、 同じ種類がヨーロッパにもあるのかと首をひねったのを思い出します。 ウィチュレー氏のバラ、と命名した方がフランシェ氏とサバチエ氏、 いずれも幕末の歴史に登場するシーボルト(実は植物学者として知られる)と同時代の人で、 日本の植物を調べて命名した……より優先され、テリハノイバラの多い横須賀の地名は生かされませんでした。 ダーウィンやモースより少し前の、18世紀後半から19世紀前半の、プラントハンターによる探検と新種発見競争の時代の話です。 科学の発見の歴史は、大河ドラマを見ているような思いを私にさせてくれます。 園芸バラには多くの原種がからんでいます。 よく知られているのは、日本のノイバラが園芸バラの原種の中で重要な位置にあることですが、 テリハノイバラも園芸バラの原種の一つです。 きわめて多数あるバラの品種の中で、テリハノイバラと全くといってもいいほどそっくりな茎と葉をもつ優良品種に、 フランソワ・ジュランビルという、古いつるバラがあります。 花径3cm、ピンクの万重咲で房咲になります。花をつけていない時期には、テリハノイバラと全く区別がつきません。 このバラは、あらゆるバラの品種の中でも抜群の耐病性もっています。 これほど病気に強いバラは、このあたりの野生種を除けば、見たことがありません。 庭木と同じ、年に一度の手入れで済みますから、昔から和風庭園にも利用されてきました。 そこで、実物の写真を撮りたいと、以前その生垣のあった家を訪ねましたが、建てかえられて生垣はなくなっていました。 また、何ヵ所かのバラ園に行って見ましたが、残念ながら、どこにも栽培されていませんでした。 古典品種に属し、グランドカバーや垣根向きの品種なのでバラ園にはないのでしょう。 古くからの住宅街を歩き回れば、見つかるかもしれません。 原種と呼ばれるバラ属野生種の多くは、園芸種のバラと容易に交雑して交配種が生じますが、 よい新品種が生まれる確率は極めて低く、たとえ千株育てたとしても、1株得られればよいほうです。 それでも長いバラ改良の歴史の中で、野生種との交配が画期的な効果を生んだ場合は、少なくはありませんでした。 数十年前の湘南海岸では、いたるところに野生のテリハノイバラ見られたと思われますが、 今では江の島以外では、ほとんどその姿を見ることが出来ません。 紹介した鵠沼の写真は、蓮池近くの空き地に隣接した新しい住宅の端でした。 園芸つるバラの先祖となるテリハノイバラの生育地をできるだけ残したいものです。
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