見られなくなったスカシユリ | |||||||||||||||||||
運営委員 鈴 木 照 治 | |||||||||||||||||||
スカシユリは一名岩百合ともいわれ、日本全国各地の海岸の岩場に適応したユリです。 佐渡島では、どの土産物屋でも「佐渡島特産のスカシユリ」と大きく看板を出して、 鉢植えや球根を店に並べています。 しかし、よく見ると、島に自生する原種ではなく、原種をイメージさせる赤やオレンジ色の丈夫な園芸品種です。 切り花用のユリの中では、スカシユリ系の占める割合が最も多く、 日本ではイースターを飾るテッポウユリをはるかに上回ります。 球根の値段も安く、他の系統の半値以下で、生産量も最も多く、花色も豊富で、青や紫を除くすべでの色を揃え、 さらに二色以上の複色花や八重咲きと、きわめて変化に富んでいます。 私が子供の頃はスカシユリといえば、だいだい色しか記憶になかったものが、戦後、黄色があらわれ、 やがて、赤、クリーム、ピンクと色数を増し、最近は純白に近いものや複色系のあでやかな花が出回るようになりました。 しかし、今でも、だいだい色のものが、一番丈夫で、 佐渡では秋から翌年初夏まで植えられるつくりやすい球根として橙と赤の二色を売り出していました。 スカシユリの品種改良には、 近縁種のエゾスカシユリ、ヒメユリ、コヒメユリ、チョウセンヒメユリなどが使われ、黄や赤の花色が導入されたようです。 前にふれたように、スカシユリは海岸生ですが、よく似た花に、 低山から高山まで分布するコオニユリがあります。 高山では草丈が20cmから30cmで1〜3輪の花をつけますが、伊豆のような低山では、 高さ120cmで10輪以上の花をつけているのが見られました。 もし、コオニユリとスカシユリの交配種ができたら、 海岸から高山に至るさまざまのきびしい環境にも耐えて、丈夫に育つものができるかも知れません。 ただし、花そのものはほかのユリにくらべ、そう見栄えのするものは期待できないので、実用性がなく、実現性はうすいでしょう。 なお、秩父の武甲山にはミヤマスカシユリという小型の近縁種があります。 さて、スカシユリは江の島に自生してはいるのですが、なかなかその姿を見ることが難しくなりました。 ほとんど断崖絶壁の上部にしか残っていないからです。 島内のある民家では、長年にわたってこの野生のスカシユリを石垣の上縁に植栽し、咲かせていました。 昨年、すっかり取り払われてしまいました。 スカシユリは種子で大量に繁殖できますから、栽培を奨励して、島中を飾りたいものです。 ヤマユリでは種をまいてから開花までに5年もかかりますが、 スカシユリはまる2年ほどで花を付けるということです。 これも、今市内各所に雑草化しているシンタカサゴユリとの交配で、 種を蒔いた次の年に開花する系統ができれば面白いと思います。 スカシユリの生態的特性は、 ハマカンゾウ注1)と共通する点が多くあります。 海岸断崖の岩隙を好むかと思えば、乾燥に耐えて砂丘後背地の風衝草原や疎林に他のやや背丈のある草と混生するものも見られる点です。 江の島では両者とも、海岸岩隙植物群落を構成します。 この場合、タイトゴメ、ハマボッス、イソギクなどが生えて、 足場がしっかりしたところに根を下ろすように思われます。 残念ながら現在ではスカシユリが群落をつくるような環境は、すでに失われてしまいました。 七年くらい前、少年団活動で行った観音崎自然公園には、 江の島にもあるガクアジサイ注2)がたくさん自生しています。 ここではイソギクを増殖し、ボランティアの手で、博物館のまわりに広く植栽しています。 以前、自生していたソナレマツムシソウという珍しい海岸植物も育成しています。 それだけに、ここにも昔あった野生のスカシユリが見られるとよいと思うのですが、育 成が難しいのか、園芸品がプランターに植えられて並んでいるだけでした。 スカシユリを江の島に呼び戻すには、まず花壇植栽をして、 栽培管理し、十分数を増やしてから野生に戻すしかありません。 植え替えがききませんので、まず、種から小さな球根を育成し(1年目)、それを畑(養成圃場)で大きく育て(2年目)、 その球根を冬から早春までに植え付けます。こうして3年目には花が咲きます。 花壇やプランターに限るなら、ハマカンゾウの場合と同様、園芸種との交配により、 丈夫で種子から短期間で開花する系統を養成し、佐渡島でやっているように、 江の島特産のスカシユリと宣伝して広めれば、江の島の初夏を一層美しく飾ることができるでしょう。 注1)かたつむり 260号、262号 注2)かたつむり 216号
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