このレポートは、かたつむりNo.317[2008(平成20)08.31]に掲載されました

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日本のワイルドフラワー・カワラナデシコ
運営委員 鈴 木 照 治
 
カワラナデシコ
■カワラナデシコ
カワラナデシコ港
■カワラナデシコ港
ナデシコ民家庭先
■ナデシコ民家庭先
ヒゲナデシコ箱根
■ヒゲナデシコ箱根
ヒゲナデシコ佐渡
■ヒゲナデシコ佐渡
デルトイテス箱根
■デルトイテス箱根
ハマナデシコ藤沢
■ハマナデシコ藤沢
 秋の野に咲く花といえば「秋の七草」を思い浮かべます。 中でもナデシコ(正式にはカワラナデシコ、一名ヤマトナデシコ)は日本の代表的な野の花で、 昔から和服の柄模様に使われています。 この花を見ると、こんなに繊細で美しい花が、本当に野草なのかと思う人も多いでしょう。 なぜなら、この花が本当に自生しているところを自分の目で見ている人が、意外に少ないからです。 実際、この花が野の草にまじって咲いているのを見ると、野生のままでこんなにきれいなのかと感心しなおすくらいです。 昔の人も、そんな気持ちで庭に植え、絵にも描いたのだと思います。 花壇、切花、鉢植えに利用されるほとんどの園芸植物は、野生の原種からは想像もつかないほど改良され、 色も形も変わっています。バラと野ばら、菊と野菊などを見れば納得します。 ところがカワラナデシコは、野生のもの(原種)がそのまま園芸種として利用されます。 相模川の河原では、今でも野生しているということですが、私はまだ見たことがありません。 もう、20年も前、藤沢第一中学校の庭で、野生と思われるカワラナデシコを見つけたことがあります。 そこで、気をつけて見ていると、あちこちの庭先で見られることに気がつきました。 栽培品かどうかはわかりませんが、新しい住宅街や頑丈な塀に囲まれた邸宅ではなく、 昔からある古い民家に限られるところをみると、特別に世話をしているのでなく、 いわゆる「こぼれだね」で存続しているようです。 一方、今年の6月、横浜の「港ミライ」を歩いていると、 赤レンガ倉庫の近くのフェンスに囲まれた空き地の草に混じって紅白のカワラナデシコが (それぞれ別の株)咲いているのに出会いました。 何年か前、このあたりの空き地が、ワイルドフラワーで飾られたことがあり、おそらく、 そのときのものが、他の花が絶えた後、わずかに生き残ったのではないかと想像しました。
 カワラナデシコは丈夫で栽培しやすく、秋の彼岸までに鉢などに種蒔きして、 苗が虫に食われないように育てれば、定植してからは、雑草に負けずに育って、翌年の初夏には花を咲かせます。 地際の葉を残して上部を刈り取り、追肥すれば、秋にもう一度花が咲き、秋の七草の一員であることを示します。
 余談ですが、先月号で紹介したハマナデシコは、長野県特産の高原の花、シナノナデシコと近縁です。 山地と海岸とは、強風と乾燥にさらされる点で共通するきびしい環境です。 さらに、シナノナデシコの近縁種には北アメリカ原産のヒゲナデシコ(英名スイートウィリアム)があります。 秋まきで初夏の花壇を彩るきわめて丈夫で作りやすい花壇草花として戦前から知られています。 近頃のように安価なポット苗が大量に出回るようになる以前は、 花好きな人が種から育てて咲かせているのを見る程度でしたが、百日草やえぞ菊に先立ち、 矢車菊や蛇の目菊などと競って咲くヒゲナデシコは古き時代の風景の一つでした。 佐渡の相川の町はずれで、昔なつかしい真紅のヒゲナデシコを見かけました。 このヒゲナデシコも最近のバイオテクノロジーの成果でしょうか、関西系の種苗会社が開発した、 蒔いた年に咲いて、しかも宿根するという画期的な異種間雑種に、お株を奪われる情勢になりました。 テルスターと名付けられたこの新品種は、江戸時代からの古典植物「とこなつなでしこ」に似て、 草丈は低く大輪で花色も豊富、しかも丈夫で、花期の長い、花壇・プランター向きの草花です。
 ナデシコ属の園芸種で最も代表的なのがカーネーションです。 その原種はヨーロッパ、地中海沿岸に自生する海岸生のナデシコの一種デルトイテスで、花はピンクの一重、 丈夫な一期咲きですが、この系統の園芸種も古くから我が国に伝わり半ば自生状態のものが各地に見られます。 ロックガーデンによく利用され、もともと海岸植物なので、カワラナデシコやハマナデシコと同様、 乾燥に強く、青みがかった緑白色の針のような細葉も美しく、市街地の住宅でもときどき見かけます。 箱根大涌谷のバス亭と土産店の間の緑地帯に群がって咲きそろう姿が印象に残りました。 近ごろは、あいた土地を長持ちする花園にするために、 ヒマワリやコスモスより簡単なワイルドフラワーの種をまきますが、これとて何年も持続しません。 多年草のナデシコ類を利用することも考えられます。 潮風の吹き付ける海べりには、ハマナデシコやカーネーションの原種のデルトイテス種、 それ以外の乾燥しやすい場所にはカワラナデシコやヒゲナデシコ系の丈夫なものを使えば、 管理もしやすいと思われます。



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