このレポートは、かたつむりNo.330[2009(平成21)7.5]に掲載されました

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想いを拡げるタイトゴメ近縁種
運営委員 鈴 木 照 治
 
科学館路傍
■写真1 科学館路傍
味の素前
■写真2 味の素前
六会駅前
■写真3 六会駅前
大船
■写真4 大船
家の庭近似種
■写真5 家の庭近似種
鎌倉白花
■写真6 鎌倉白花
鎌倉白花2
■写真7 鎌倉白花2
植栽セダム
■写真9 植栽セダム
 6月中旬、東京湾に注ぐ多摩川の河口に近い川崎市小向の東芝科学館に寄りました。 多摩川の土手に沿って歩くのが目的でしたので、短時間の見学でしたが、日本の科学技術の草分けにあたる歴史の一部がわかりやすく展示、説明されています。 すぐ近くには市立川崎総合科学技術高校があり、そのわきから土手沿いに海方向にむかい、河口水門まで歩いて味の素工場も見学しました。 約6km、散歩に適した距離です。このあたりは5〜60年前まで、自然の河口風景が広がっていたところでした。 その当時、学生時代の私は、河口の塩生植物群落を調べる手伝いをしました。 見渡す限り続く広い湿地帯は、潮の満ち干で水位が大きく上下するうえ、水面のほうが塩分が濃いので、ヨシも生えず、泥状の陸地には帰化植物のホウキギクの仲間が一面に生えていました。 しかし、現在の水辺には、このような自然植生はまったく見当たりません。 芝生の土手の一部を残し、水ぎわは、雑草も生えないようにコンクリートで固めつくされ、手すりに護られた人工の舗道が続きます。 植物生育の基盤である大地が、泥から岩へと大転換したことになります。歩いているうち、江の島海岸に自生するタイトゴメによく似た植物を発見しました。 (写真1)は、川崎の東芝小向工場(東芝科学館と市立川崎総合技術高校の間)わきの歩道と車道の境目に沿ったところで、(写真2)は同じ川崎の味の素工場前の歩道の置かれたプランターでした。 この植物に興味を持ったわけは、花そのものも、咲く時期も、さらにはわずか1〜2cmの草丈のいずれもが、タイトゴメと同じだからです。 しかし、葉の形は全く違っていました。タイトゴメの葉が、米粒状なのに対し、この植物の葉は、細く短い棒状(長さ5〜6mm、太さ1mm)で、葉も茎に密生しています。 この、タイトゴメによく似た生態的特性(花期と草姿の一致)を持つ植物「セダムsp」(タイトゴメと同じセダム属の一種の略)を、私は以前から藤沢市内をはじめ、 各所で見ているのですが、花を見るのはこれが初めてでした。これまでに見られた多くは植栽されているものですが、一部、自生化して路傍に進出、繁殖する姿も見られます。(写真3)
 以前、タイトゴメについて記述した際、ふれたかも知れませんが、片瀬山や大船で、タイトゴメそっくりな植物を見たことがあります。 その後、片瀬山では見かけませんが、大船のものは健在で、よく繁茂し、広がっています。 一本採集して挿し木し、鉢植えにしておきましたがよく増えるのに花は咲きません。 ところが、何年ぶりかして今年の6月中旬、鉢から少し離れた敷石の隙間で花をつけているのが見つかりました。(写真4)、(写真5) そこで、あらためて葉をよく見ると、タイトゴメの米粒形と少し違うようで、ピーナツを半分に割ったような葉の表が平らに見えます。 しかし、マルバナンネングサ(ヘラ形の葉)ともちがって、葉の裏は丸く、 平らではありませんし草丈も低く1〜2cm(マルバマンネングサなら7〜8cm)ですから、これまた私にとっては新しい発見です。 6月下旬、鎌倉で、道に面したエントランスの一角をセダムの寄せ植えにし、そこにタイトゴメそっくりで花が白色のセダムがありました。(写真6)、(写真7)
 こうしてみると、タイトゴメに近い仲間は」1種や2種ではなさそうに思われます。 その中で、タイトゴメただ1種が江の島の岩場に自生することになったのは、どんな経緯なのでしょうか。 何種類もある近縁種のどれもが、日のよく当たる岩の表面の、わずかな裂け目に身を支えるだけの根をおろし、茎と葉を岩の表面に密着させて伸ばし、 他の植物の割り込みをしりぞけつつ、ただ一種、過酷な環境条件の岩場を独占的な生育場所にしていると想像すると、 それらの種類の故郷が世界中のどこにあるのか、きっとどこかにあるはずですから、その一つでもルーツをさぐる手がかりを得たいものだと思いました。 もし、本来の自生地がわかれば、現地を訪ねる旅も夢見ることが出来ます。 私の家のタイトゴメ近似種は、植えた鉢のものはよく茂っていますが開花せず、下にこぼれて敷石のすき間に生えたものだけが、今、花を咲かせています。 焼けるような敷石の照り返しが、開花を促進しているようにも見えます。 江の島の舗道沿いに繁殖するタイトゴメ(写真8)も私の家のと同様、午前中半日陰で、西日の当たる敷石の縁に生育するものです。
 何年か前、横浜市鶴見区生麦で、生麦事件発生現場から100mほど東京よりの「じゃもかも神社」入り口で見たタイトゴメは、はたして本物なのか、 近似種なのかわからなくなり、先日、もう一度通ったときに探してみましたが、どうしても見つかりませんでした。 環境が少し変わっただけで、生育を続けることが難しくなるのかも知れません。 江の島の舗道沿いに増えているタイトゴメ(まさか近似種ではないとは思いますが)も、いつまであそこに生き続けられるのか、少し心配になってきました。(写真9、植栽のセダム)
江の島舗道
■写真8 江の島舗道


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