あおきおくれみの話 | ||||||||
運営委員 鈴 木 照 治 | ||||||||
私の家のアオキの実も、2月に入ったとたん全部残らず食べられてしまいました。 最近、これまで残っていた山林がなくなって住宅地に変わり、わずかに残った庭木の実を野鳥がねらって食べるためか、 以前のように色づいた実が長い期間庭で楽しめなくなり、網をかけて食べられないようにしたり、 早めに切り枝にして家の中に飾ったりするようになりました。 2月という絶妙のタイミングで、大きな実を真っ赤に色づけるアオキは、 日本の常緑樹林域の生態系の持つ自然環境を巧妙に読み取った適応(遺伝子構成)を遂げているといえるでしょう。 アオキは西南日本の暖帯林内の低木として広く分布します。学名Aucuba japonica Thunb. の属名アウクーバはアオキの日本名そのもので、 種名はもちろん「日本」ですし、ツンベルグはシーボルトと同時代(18世紀初頭)、日本の植物を研究した著名な分類学者です。 アオキは、これまで、ミズキ科に属していましたが、最近、分類体系が変わってアオキ科となりました。 以前(カタツムリ319号、2008.10.9)、リュウゼツランが、ヒガンバナ科からリュウゼツラン科に変わったと書きましたが、 江の島のサムエル・コッキング苑では、一部の標示がさっそく変えられました。 図鑑など、すぐには変えられませんが、学校や植物園では、ただちに改訂するのが、望ましいのです。 科学の進歩につれて、学説は更新されますが、体系が大幅に変更されるのはめったにないことなので、新しい時代になったことを感じています。 近ごろ、あまり広くない門口を美化するガーデニングが盛んになりましたが、花が主で、実ものは古い家の千両ぐらいしかありません。 毎年、実ものを成らせるには、難題が二つあります。一つは1本だけでは実が成りにくいこと、 もう一つは花粉を媒介する(花から花へ花粉を運ぶ)昆虫が来てくれるかどうかわからないことです。 アオキはせまくて日の当たらない庭でもよく育ちます。雌雄別株なので、実の成る木(雌木)と花が咲くだけで実の成らない木(雄木)があるので、 実の成る木を一本だけ植えても実がなるとは限りません。昔(17〜8世紀)、イギリスに日本から実のなるアオキが輸入されましたが、実が付かず、 後から雄木を入れてようやく実が付くようになったという話が残っています。アオキ、スギ(スギ科→ヒノキ科)、 クロマツ(学名にツンベルグの名)という藤沢でおなじみの日本固有の植物、どれも話題にことかきません。 |