12年前から、藤沢市の観光ガイドをしています。案内するコースを事前にくわしく下見して歩きます。
先日、その下見の会で、湘南台に住む人から、写真を見せられ、市道のコンクリートのすきまに、スミレ
(愛好家がマンジュリカと呼ぶホンスミレのこと)が、一列に長く連なった見事な群落になっているのを市の人が取り除こうとするので
「採らないで」と頼んだというのです。私も以前から各地で石垣、舗道縁、
コンクリートなどのすきまに単独または群落をつくるスミレを何度も見ているので、どの程度の規模なのかと聞きますと、
10m以上も続いているとのことでした。
もう、20年以上前のこと、御所見のある寺で、細かい砂利を敷き詰めた境内の広場いちめんにスミレが咲き乱れているのに出会って感激したことがあります。
それが、あまりに見事だったので、何年か後にもう一度、同じ季節に行って見ました。残念ながら、期待通りにはいきませんでした。
広場の大部分は芝生に変わっていて、ところどころに配置された小さな庭石の縁に沿ってかなりの数のスミレが咲いているといった状態になっていました。
十分の一くらいに減っていたのです。スミレは多年草ですが、植えておいても、いつのまにか姿を消してしまいます。
多年草の中には、半永久的に生き続けるものと、数年で代がわりするものとがあるようです。
自然状態でスミレがどんなところに生えているかを調べてみると、裸地で、他の草と競合しないような条件のもとに生活しているようです。
もっとせの高い植物のつくる群落の外側の縁で日のよく当たるところに限って生えています。
畑や土手のへり、垣根のすそ、野道の道ばた、そして、都市化した現在では、舗装道路の石やコンクリートのすきまです。
今日、私たちの身近で、自然に生えてくる雑草の大部分は外来植物(帰化植物)ですが、日本に昔からあった野生植物でも、
自然が破壊されたあとの傷を埋めるはたらきをするものがあり、それがクズやカナムグラの生えたマント群落であり、
スミレやムラサクケマンの生えるソデ群落です。スミレは自然が破壊された傷あとを埋める自然の植物で、外来植物とは区別し、
その生存が維持されるよう配慮すべきものと考えます。街に住む私たちから見ると、スミレは半世紀前から徐々に減り、ひと頃全く姿を見せなくなりましたが、
最近、かなり見られるようになりました。外来種でもオオイヌノフグリが同様の傾向を見せてくれます。
先日、阿弥陀が滝という観光地で、大勢の人のいる近くまでカモシカが姿を見せ、驚いたところです。
サルやイノシシが町にやってきたり、野鳥が、庭の木の実を食べに来たりするのが今の時代です。
日本古来の野生の植物が都会の中で、ようやく住む場所を得ている有様に出会って、自然の不思議な営みに感動しました。
市道に草が生えては、市にとっては迷惑なのはわかりますが、スミレは他の外来雑草とは違う植物であることをご理解いただき、
しばらく見守っていただければ幸いと願っています。
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