このレポートは、かたつむりNo.346[2010(平成22)10.24]に掲載されました

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平地にも高山にもある大和撫子
運営委員 鈴 木 照 治
 
タカネナデシコ磐梯山
■タカネナデシコ磐梯山
カワラナデシコ路傍
■カワラナデシコ路傍
カワラナデシコ勝山成
■カワラナデシコ勝山成
ヒゲナデシコ系花壇
■ヒゲナデシコ系花壇
 夏の野外活動で磐梯山に登りました。頂上の近くに「お花畑」があり、そこは一面に広がる丈の低い高山植物の草原で、あちこちに花が見られました。 道端にピンクの花が7〜8輪かたまって咲いていて、花壇でよく見かけるナデシコと同じ花でした。 これはタカネナデシコという高山植物で、草丈20cmほどですが、これと同じ仲間で藤沢にも野生するカワラナデシコは、草丈50cm、 花の形はほとんど同じで、植物学上は同じ種と見られています。 高山のものは、草丈が低く、花がいくつかかたまって咲き、花の色もやや濃くて目立ちます。 平地のものは、他の草に混じって背も高く、花もはなればなれに1、2輪ずつ咲き、色もややうすく白っぽいので緑に囲まれたところでは、 かえって目立ちます。宿泊地にもどると、宿のまえの花壇に平地と同じカワラナデシコが咲いていました。 7月に最初の花が咲いた後、二番目の花を咲かせたところです。すぐそばの別の茎に実をつけていて、先端から黒い種がのぞいていました。 8月11日に山梨県都留市の勝山城跡で、広場の草原に咲くカワラナデシコを見ました。 また、20年ほど前、藤沢一中の芝生に生えて咲いているのを見つけたことがあります。 相模川の河原では今でも咲くそうですから、境川や引地川の河原でも見つかるかもしれません。 この数十年、都会化とともに、他の野の花が次第に姿を消す中で、カワラナデシコは最近まであちこちに生き残っているようにも見えたのですが、 最近は藤沢で見たことはありません。雑草にも負けない、抜群に丈夫なカワラナデシコが、きれいな花を咲かせるにもかかわらず、 なぜ、都会地では見られなくなったのか、不思議でもあり、納得のいかないまま、私はずっと気にかかっていました。 原因として考えられることはいくつかあります。その一つとして、ヒョロヒョロ伸びるので、鉢植えや花壇向きではないことです。 苗が売られていないこともあげられます。昔から日本に自生し、ヤマトナデシコ、ナデシコ(撫子)と秋の七草の一つにあげられる野草なので、 わざわざ売るほどのものと見られていないのでしょう。店で売られているのは、カワラナデシコとは別系統の園芸種で、花壇用に改良され、 草丈が低く、多花性で花色も豊富なナデシコです。 庭の秋草に混じって数輪の花を咲かせるカワラナデシコは、今流行のガーデニングとは合わないのかもしれません。 和風の庭が少なくなった現在では、生き残れる場所が減ったと思われます。 タネは今でも売っていますが、秋の彼岸前後、庭に蒔いても一、二本出るかどうかで、期待できません。 春まきの方がよく発芽しますが、その年には咲かず、開花は次の年になります。 一袋3〜40粒の種をむだなく育てるには、秋に鉢蒔きして、芽生えを害虫から守る必要があります。 虫のいなくなった秋の終わりに庭に植え出せばよく育ちます。 以後、数年間は、毎年花を咲かせてくれるでしょうが、そうまでして野草を育てようとする人は、今ではいなくなったのでしょう。
 こうしてカワラナデシコは、今では細々と目立たないところで生命をつないでいるのだと思われます。 滅びてしまわずに、しぶとく生き残っているのを見つけるたびに、「大和撫子」の芯の強さを思わずにはいられません。 そして、この強靭な生命力のゆえに、低地から高山に到る向陽の荒地をを美しくかざってくれるのでしょう。 昔の人に愛された秋の七草のカワラナデシコを、庭の一隅に生かすゆとりがほしいものです。

カワラナデシコ系花壇
■カワラナデシコ系花壇
タカネナデシコ磐梯山
■タカネナデシコ磐梯山
カーネーション系花壇
■カーネーション系花壇
カワラナデシコ市街地
■カワラナデシコ市街地

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