江の島から消えたかアリドオシ | ||
運営委員 鈴 木 照 治 | ||
ある年の暮、テレビを見ていると、東京生花市場で、今売れ筋の花の紹介をやっていました。 それは、正月の鉢物として江戸時代からの、「千両、万両ありどうし」のしゃれで、 その3種類を寄せ植えしたものが出荷されているところでした。 千両と万両は今でも切花、鉢植え、和風の庭でよく見かけますが、アリドオシは近頃ほとんど見られません。 小さなアリをも突き通すような絹針より細く、鋭く長いトゲを持つ1cmほどの丸い葉を多数つけた小さな常緑の木です。 生えているところは暗い林の中で、やや乾燥気味の日陰です。家の庭でも、庭木の根元など半日陰で元気よく育ちます。 以前は、近隣の山でまだ自生を見かけました。 江の島でも、20年ほど前まで、奥津宮裏手の急斜面に、スダジイ林の下草としてホソバカナワラビとともに、 元気な姿を見せていましたが、今行ってもそこにはありません。 アリドオシは本来、台地上の乾燥気味の立地に成立する自然林(ホソバカナワラビースダジイ群集の典型亜群集) を構成する比較的数少ないメンバーの一員と考えられ、この植物の自生を許す場所は、 今では極めて限られた場所になってしまったと思われます。 近ごろは、自然に近い林に出くわすたびに、アリドオシをさがしますが、いつも空振りに終わります。 ところが、先日、浦賀街道(黒船を見に竜馬が通った)を歩いた帰りに、神武寺(古代の勅願寺)に立ち寄ったところ、 薬師堂山門近くでアリドオシに出会いました。 3〜40年位前までなら、どこの樹陰にもある、きわめてありふれた植物だったと記憶しています。 近所のネコが、わがもの顔に、庭に侵入するのを、けん制するためにも、細く鋭いトゲは極めて有効なのではないかと思われます。 アリドオシは「一両」ともいわれ、始めにふれた、めでたい組み合わせと、日陰に適した性質から、千両、万両、 ヤブコウジ(十両)とともに、現代の日陰の植栽にもっと採り入れてもよいのではないかと思います。 さて、昭和26(1951)年、片瀬中学校科学部のまとめた「かわいい科学者」による江の島植物一覧には、アリドオシはなく、 よく似たジュズネノキが入っています。 20年ほど前、私と松本先生が見たのはアリドオシではなく、トゲの短いジュズネノキであったかもしれません。 最近数回その場所に行って探してみたのですが、どうしても見つかりませんでした。 この10年ほどの間に、藤沢市内で、以前あった大木が姿を消しました。 一方、公園などでは植えられた木が10年、20年経ってかなりの大きさに成長した姿も見られます。 もっと前から植えておけば、今頃もっと大木に育っているはずですが、景気がよかった2〜30年前、 木が植えられることはありませんでした。 森の木が少しずつ失われる中で、アリドオシのような小さな木が住みにくくなったのだと思います。 今、残っている森にアリドオシがもどって来てほしいと思います。 そして、江の島では、もっともっと、ごくありふれた植物になることを期待しています。
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