このレポートは、かたつむりNo.361[2011(平成23)11.20]に掲載されました

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帰ってきたムラサキ
運営委員 鈴 木 照 治
 
染料植物ムラサキ
■染料植物ムラサキ
学部発祥記念碑
■学部発祥記念碑
通用門を入る
■通用門を入る
ヤマシロギク
■ヤマシロギク
入り口近くの草地
■入り口近くの草地
ムラサキの花
■ムラサキの花
 9月に入ってまもなくのある日、江の島・藤沢ボランティアガイドをしている方から電話があり、 「市内六会の日大のあるところは、「紫陵(ムラサキがおか)」といって、染料植物のムラサキがたくさん生えていたそうですが、 最近、『生物資源科学部発祥の地記念碑(駅から遠い側)』のまわりにムラサキが植えられています。 もっと駅に近い、手前の門から入ってすぐのあたりにもそれらしい草が群落になっているようなので、 それもムラサキなのか確かめてくれませんか。」との依頼がありました。 私が自生しているムラサキの花を見たのは、高校時代、もう60年も昔のことです。 その後、20年ほど前、丹沢のふもとを歩いていて、それらしい花を見つけ、めったに会うことのないいとこにその話をしたら、 「それはめず゙らしい、Gさんの家の庭で見たことはあるが、いまどき自生のものが見つかれば、たいした発見だ。」というのです。 そこで、物好きにも、わざわざ渋沢からバスにのり、大倉で降りて、現場まで行って見ました。 もう花の時期はとっくに過ぎていたので、それらしい葉をつけているものを一株だけ掘り取って(今ではそんなことはしませんが)、 大切に持ち帰り、庭の現地に似た環境のところに植えました。次の年になり、枯れずに生きているので期待していると、 夏になっても花をつける様子はなく、やがて秋なかばに白い小さな菊の花を咲かせました。 「なんだこりゃあ……、ヤマシロギクじゃないか……」。がっかりしました。それは、あちこちで見かける普通の野草です。 その後、ふたたび丹沢に行く機会があり、ちょうど夏でしたので、帰りは、ムラサキらしいのがある道を通ることにしました。 いよいよ、以前見た場所にさしかかり、よくよく探すと、たしかにムラサキらしい植物があり、花も咲いていましたが、 それはなんと、うすい紫色だったのです。私の記憶ではムラサキは白い小花を数個つけていました。 「これじゃあ、ぜんぜん違うじゃないか……。」こんどのがっかりのほうが、前よりも大きいものに感じました。 年をとってから植物好きになったいとこに合わす顔がないと思ったものです。 ムラサキに良く似たうす紫色の花はヤマルリソウで、これも今ではほとんど見られなくなった野草です。 さて、電話をもらった次の日、日大に行って見ました。通用門から入ると、足元がいちめんのチゴザサ(小さな竹の一種)の林をぬけ、 池に面したあたりに、やや日の当たるムラサキの生育に適した場所がありますが、除草された後のようで、 「芝生造成中」の立て札のほかにはムラサキらしいものは見当たりません。巨大な校舎を通り抜け、西南の端ちかくにある記念碑に行きました。 新旧二基の碑の周りに広く、草丈30cmほどの細葉の草がぎっしりと茂って、近寄るとムラサキであることがわかりました。 中に一、二本、花をつけているのを見つけて写真に撮りました。二つの碑の真ん中に、カラープリントをシールした仮設の説明板?があり、 昔、この岡にあったものを武蔵野の自宅に移して保存し、平成21年に此処へ返したとありました。 このあたりにふたたびムラサキがよく見られるようになればうれしいのですが、当時とは環境が変わっているので、移植したものの多くは、 ヤマユリのように、ウィルスが出て、数年で姿を消すのではないかと心配です。 ともあれ、本物のムラサキが咲いているのが見られたのは60年ぶりで、ほんとうによかったと思いました。


日大農学部発祥の碑
■日大農学部発祥の碑
ムラサキ説明板
■ムラサキ説明板


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