このレポートは、かたつむりNo.362[2011(平成23)12.11]に掲載されました

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里山のコナラ
運営委員 鈴 木 照 治
 
新林公園
■新林公園
コナラの芽生え
■コナラの芽生え
雑木林のコナラ
■雑木林のコナラ
コナラの幹
■コナラの幹
夏の雑木林
■夏の雑木林
里山復元中
■里山復元中
 家の近く(住宅地)で見られる植物の多くは、庭木や、花壇、鉢植えの花など、人が植えたもの(植栽)か、自然に生えてくる雑草のどちらかです。 日本に昔から生えている植物(自生種=野草や自生する木)を観察するには、ふだんから良く注意して生えている場所を知っておく必要があります。 近くに「自然公園」か「里山」があれば、その地域の自生種の多くを見ることができます。 「 」をつけたのは、自生種の観察に適不適があるからです。
 藤沢では、新林公園以外は、あまり観察向きではありません。
 12月に予定されている戸塚の舞岡公園は、里山はじめ、様々な程度に管理された自然を体験することができます。 昨年観察した二俣川のこども自然公園よりも、より自然度の高い自然を見ることができます。 里山の景観(見たままの様子)をつくっているのは、落葉樹林(夏緑林)です。その主体となる主要木は、コナラです。 コナラは落葉樹ですが、自生地は主に常緑樹林帯で、垂直分布で見ると関東あたりでは、落葉樹林帯に近い常緑林帯上部(海抜400〜500m)に多く自生します。 もっと低いところでも、日のよく当たるところなら、ごく普通に自生します。里山では常緑樹を生やさないで、 20〜30年おきに伐採しますから、陽樹林の状態が存続するのです。
 関東地方の落葉樹林帯は、ブナ帯で、海抜600m以上に発達します。ブナ帯にはコナラに近縁のミズナラが生えます。 コナラは全く生えないわけではなく、他の木の生えない陽光地に見られます。 昨年の夏季活動で行った磐梯山の北の五色沼を歩いたとき、ミズナラを観察しました。 同じ落葉樹で近縁の2種ですが、コナラの方が陽樹性(日当たりを好む性質)が強いのでしょう。 標高の高い落葉樹林帯で、持続して自生できるのはミズナラで、コナラは陽樹として、一時的に生活するのではないかと思われます。 海抜500mの高尾山では、コナラの巨樹が何本もそびえています。コナラは、本州、四国、九州に広く分布していますが、 いちばん広範囲を占めるのは、一定の人為の加えられた自然、すなわち「里山」の雑木林です。 ここでは、陽樹としてのコナラの特性を、いかんなく活用した管理(落葉が堆肥に活用され、薪炭林として20〜30年周期で伐採される)のもとに、 人間生活とともに持続してきた植生の主要木としての重要な役割をになっています。
 COP10(昨年名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議)で日本政府が提唱した「愛知目標」(2050年までに『自然と共生する世界の実現』)では、 日本が古代から、半世紀前まで営んできた里山と水田をセットした自然と人間の共生する世界がモデルとされています。
 コナラは雑木林に常在する樹種です。藤沢市内の雑木林100箇所を調べたとすると、そのうちの90箇所ではコナラが生えている場合、 「常在する*」という表現ができます。
 もう、40年も前、植物群落の種類別の分布を示す「植生図」をつくる大作業に参加したころ、 雑木林(里山という言葉が使われていない時代)はコナラ‐クリ群集とオニシバリ‐コナラ群集として地図上に記載され、今でも図書館で見ることができます。 半世紀前のそのころに比べて、現在では雑木林(里山)の大半が失われています。 この植生図作成のために現地調査をしたのは、すでに里山の管理がされなくなってから数年から十数年経っていました。
林内はアズマネザサに覆いつくされ、早春を彩る小さな野草は失われていました。 水田や畑とちがって農地としての規制を受けない雑木林は、その後、切り払われ住宅用に造成されました。 それでも残った雑木林の中で、コナラはどんどん成長を続け、今では大木になっています。 全く人の手の入らなくなった林の中では、コナラだけが成長を続けることができ、その後の林内を占領したのはアズマネザサと常緑広葉樹です。
 今年は、山のドングリが不作で、クマが里や街によく現れる。とテレビで報道されました。 先日も「コナラのドングリが、今年はいくらさがしても見つからない」と運営委員のある人から聞きました。 理由として考えられるのは、@、去年、成りすぎたので、今年は休み年。A、今年の春から夏にかけての気候不順。 の二つが頭に浮かびますが、それ以外の原因かも知れません。 11月に舞岡公園に2回ほど行って、ドングリを捜しましたが、どうしても見つかりませんでした(シラカシのドングリだけが拾えました)。 他の果実はよく実をつけていました。ウメモドキ、カマツカ、ガマズミ、マユミなどです。
 最近、問題にされているのは、コナラの生命を危うくする害虫です。 カシノナガキクイムシと呼ばれる甲虫が大発生し、木の幹に食い込んで、同時に持ち込まれる微生物が導管をふさいで、 葉に水分が届かず、乾燥した状態でしだいに弱り、ついには枯れるということです。 昆虫少年だったころ、シイの木にキクイムシが入るのは知っていましたが、木は何の影響も受けずに元気にしていたと思います。 新しい外来の害虫なのでしょうか。せっかく日本が世界に提唱する「自然と共生する里山モデル」も、 その中心となるコナラに危機がしのびよっているのではと心配になります。 カシノナガキクイムシの習性は、地上2〜3mの幹に産卵するということで、京都大学では地面から5〜6mまで幹にビニールシートを巻けば、防除効果があるとの実験中でした。

里山の復元
■里山の復元
コナラの虫除け
■コナラの虫除け


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