50歳になったころ、「定年後を考える」という泊りがけの講習に参加しました。
@資産管理(30年前は高金利で、証券投資を推奨)、A健康管理(定期健診と運動の習慣)、
Bが「生きがい」で、@、Aはその当時、問題はありませんでした。
B定年後の生きがいは、若いころからの夢をいよいよ実現に向けて進めるのですから、やりたいことが山ほどあります。
未知の世界への挑戦(チャレンジ)ほど、胸躍らせるものはありません。いろいろな構想が浮かびました。
まずNPOで世界中をめぐり、人間の影響で、荒れたり砂漠化した森林の復元のため、調査団に加わり、研究者の手助けをすることでした。
40代まで続けた研究室通いをやめてからの空白を埋めるための勉強も必要です。
しかし、その夢は、ある日突然、わが身に降りかかった健康上の問題からあきらめざるを得ませんでした。
定年後の私にできることとして、NPOに代わるボランティア活動を、いくつもかけ持って数年前までやってきました。
それ以前からかかわっていた科学少年団もその一つです。
昨年秋の活動、科学博物館では、近年わかってきた生物多様性の一例として、イネの栽培と品種改良の歴史と方向が展示され、
小学生にもわかるように解説されていました。イネの品種改良の歴史を見ると、年代を追って草丈がしだいに低くなっていくことがわかります。
ほかにも日本の国蝶オオムラサキの、地方によるこまかい変異が展示されていました。
近年、オオムラサキ(日本の国蝶)の発生地は狭まり、はなればなれになったが、そのそれぞれが、たがいに少しづつ違っているのが、
翅(ハネ)の模様の細かい違いでわかるということです。「藤沢メダカ」もそうですが、最近見たテレビの科学捜査研究所では、
キブシのDNA分析で、外観が全く同じでも、その生育地がそれぞれ特定できるという場面がありました。
以前紹介したエノシマキブシ(ナンバンキブシ)は外形からもかろうじてキブシとの区別が可能な一例です。
モンキアゲハ、ナガサキアゲハ、ミカドアゲハなど分布境界線の微妙なゆれも、説明抜きで標本だけ展示されています。
以前、科学少年団も協力してクマゼミのぬけがら調査をしましたが、発生地の境界が静岡から神奈川へと、
より寒い地域に向かって徐々にずれてきていることは、いまでは明らかになりました。最近、ナガサキアゲハが江の島で見られるようになっています。
昆虫少年だったころ、クロアゲハやモンキアゲハに似ていて、しっぽのないアゲハが、関西にはいるのだと聞いていて、実物を見たいと思ったものです。
それが、60年以上もたってから目の前にいる実物を見ることになるとは思ってもいませんでした。
昨年春、江の島の自然と植物の講演をしたところ、「地球温暖化の影響について、江の島で何かわかりますか」と質問されました。
それらしいことは、いくつか思い浮かべることはできます。
例えば、江ノ島の森林の林床にノハカタカラクサ(暖地性外来種)が十年ぐらい前から蔓延していることもその一例ですが、
はたしてそれが温暖化によるものなのか、他の要因(この方がはるかに大きい)によるものか、ハッキリと答えられるものではないというしかありませんでした。
同じ地域内で自生する植物の生育にかかわる多くの変化のほとんどは、人為的環境変化によるものだからです。
ナガサキアゲハの場合も、クマゼミの場合と同じく、植木などに付随して持ち込まれたとも考えられるからです。
生物の個々の種類や系統ごとの生育環境や、それらが持続的に生活できる環境条件との対応も、しだいにあきらかにされてきているようですが、
まだ、詳細にはわかりません。このように、身近なところにもわからないことは無数にあります。古人の言葉に「これを知る者はこれを好む者に如かず。
これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」とありますが、「科学の面白さ(知って、わかって、満足)」もまたここにあります。
今年度も、皆さんと共に科学を楽しみましょう。
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