このレポートは、かたつむりNo.370[2012(平成24)06.17]に掲載されました

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江の島特有の植物
運営委員 鈴 木 照 治
 
 江の島を訪れたら、江の島でなければ、なかなか見ることができない植物を見ておくことをお勧めします。

@イソギク(葉)
 山二つの赤土の崖下で、秋に黄色い花をつけるのがイソギクです。向かい側の断崖には大群落が見られます。 手前のものは誰かが植えたものとも見られます。昔はもっと目につくところにもあったのですが、 人の通る道筋では雑草の方が勢いを増して、イソギクは殆ど見られません。 東側の女性センター南側の方が観察しやすいところにあります。
イソギク(葉)
■イソギク(葉)
Aハチジョウススキ(葉)
 江ノ島「山二つ」の石段から海を見下ろすと、そのあたりのガケは一面のハチジョウススキに覆われています。 ススキとちがって冬も緑だからすぐわかります。一般的な見分け方は葉の巾です。 ススキは2cm以内なのに対して、ハチジョウススキは2.5cm以上あります。 もう一つ、ススキの葉の裏は、表より色がうすいだけなのに、ハチジョウススキの葉の裏は、 粉をふいたように白味をおびているのも区別点です。 植物園側の急斜面にはふつうのススキも生えているようで、中には厳密に区別できない個体もあるので、 ハチジョウススキをススキの変種とする説も有力です。 また、エノシマススキというのが、その間種であるともいわれます。 ハチジョウススキは、海沿いのガケが主な自生地で、ススキは、内陸部のガケに生えます。 どちらも全国に分布します。
ハチジョウススキ(葉)
■ハチジョウススキ(葉)
Bタイトゴメ(花)
 珍しい名前のついたこの植物は、東京近辺では江の島特産と言っても言い過ぎとはいえないくらい、今では希少な存在になりました。 タイトゴメは、つやのある飯粒のような多肉の葉を密生するわずか数cmほどの植物です。 海岸の断崖を構成するむき出しの岩の表面は、植物の生育にはこの上なく厳しい環境です。 他の植物の進出を許さないこの岩のわずかな隙間にタイトゴメだけが根を下ろしています。 (県下では三浦半島海岸のごく一部にのみ分布します。 身近に見られる小さな海岸植物タイトゴメが、いつまでも江の島に存続することを望みます)。
タイトゴメ(花)
■タイトゴメ(花)
Cエノシマヨメナ(ハマコンギク)(葉)
 藤沢の地名を冠した植物は3種類ありますが、エノシマヨメナはその一つです。 (母種のノコンギクより少しばかり花が大きいかわりに、花数はやや少なく、草姿はたくましく、 葉はより丸みをおびて、より厚みがあり、手触りがやや剛い)、分類上の正式和名はハマコンギクといいます。 以前(戦前、この植物がノコンギクの一品種として記載された頃)は、江ノ島に行けばごく普通に見られたものだったようです。 近年、江の島の「山二つ」のあたりで、以前見たハマコンギクらしい株に再び出会い(まだ記憶に新しい三浦のものと寸分たがわぬ姿に)、 エノシマヨメナがまちがいなく江ノ島に残っていると確信しました。
エノシマヨメナ(ハマコンギク)(葉)
■エノシマヨメナ(ハマコンギク)(葉)
Dエノシマキブシ(ナンバンキブシが正式和名)(実)
 海岸植物とはいえませんが、の島を取り巻く、くずれやすい急斜面の、不安定な立地を好んで自生しているキブシの変種です。 江の島に限らず鎌倉から三浦半島一帯のキブシは、内陸のものとはちがって、花の房が長く、よりたくさんの花をつけます。 八丈島にも自生するので、ハチジョウキブシともいわれます。 ふつうのキブシは日本中いたるところの川や道路沿いの急斜面にごく普通に見られます。 どちらも冬の訪れとともに枝先にスズランのようにずらりとつぼみをぶらさげ、2月、クリーム色の花を咲かせます。 とりわけナンバンキブシは房が大ぶりなので、梅と同じ頃の開花が楽しめます。
エノシマキブシ(ナンバンキブシが正式和名)(実)
■エノシマキブシ(ナンバンキブシが正式和名)(実)
Eキケマン(実)
 杉山検校の墓のある墓地の崖には、今では珍しいキケマンが自生します。キケマンは近海の、時には乾燥する崩壊地の縁などに生えます。 半世紀前、東側の急斜面に大群落がありましたが、今はありません。5・6年前、西浦の墓地のガケに群落が見つかり、 キケマンが、まだ江の島に健在であることがわかりました。キケマンを簡単に見ることができる場所は、今のところ江の島ぐらいです。
キケマン(実)
■キケマン(実)
Fスカシユリ(花)
 数十年前までは、毎年、6月になると、オレンジ色のスカシユリの花が岩山のそこここに咲き乱れていました。 スカシユリは一名岩百合ともいわれ、日本全国各地の海岸の岩場に適応したユリです。 スカシユリは江の島に自生してはいるのですが、なかなかその姿を見ることが難しくなりました。 (ほとんど断崖絶壁の上部にしか残っていないからです。) 島内のある民家では、長年にわたってこの野生のスカシユリを石垣の上縁に植栽し、咲かせていました。
スカシユリ(花)
■スカシユリ(花)
Gオリヅルシダ(葉)
 このシダは暖地性で繁殖のしかたが変わっています。 葉の中軸が細長くのびて、その先端に子株を生じ、伝統的折り紙の技で、羽先に子鶴のつながった折鶴から、この名が付きました。 関東近辺では、房総半島南部あたりが分布の最北端のようで、やはり江の島は貴重な自生地です。
オリヅルシダ(葉)""
■オリヅルシダ(葉)
H野生のガクアジサイ(花)
 江の島では、アジサイのルーツ「ガクアジサイ」が自生するのが見られます。 アジサイは、ユリとともに、日本が原産の世界的な園芸植物です。 アジサイ(オタクサと呼ばれる原品種)はガクアジサイの変種と位置づけられています。 ガクアジサイは、園芸品のアジサイより大ぶりで、葉につやがあり、丈夫でよく繁ります。 江の島には、野生のガクアジサイが自生する場所があります。 まず、辺津宮から中津宮へ向かう途中、金亀楼跡の和風庭園背後の急斜面に多数見られて壮観です。 山二つの断崖を見下ろすと、自生と見られる数株のガクアジサイに混じって、頭花すべてが飾り花の、 ホンアジサイ(オタクサ)が認められました。 ガクアジサイは江の島名物の一つとしてとりあげるにふさわしい植物です。
野生のガクアジサイ(花)
■野生のガクアジサイ(花)
Iオニヒゲスゲ(葉実)
 西浦の墓地のガケの岩の上にむらがって生えています「ヒゲスゲ」は小笠原島産のものにつけられた名で、 本州のものは「オニヒゲスゲ」と命名されたと図鑑にありました。 江の島のヒゲスゲを記載した文献は一つだけ、55年前片瀬中発行の植物目録にオニヒゲスゲとあるのみです。 女性センターのあたりの岩場にも自生しています。 学名から、ヒゲスゲはハワイや小笠原に近似種もしくは母種を持つ、変わった素性のスゲだとわかりました。
オニヒゲスゲ(葉実)
■オニヒゲスゲ(葉実)

 せめて3種類は見つけてください。10種すべて見つけられる人は凄腕(スゴウデ)のプラントハンターです。

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