黒曜石への思い入れ | ||
運営委員 鈴 木 照 治 | ||
ジョバンニ「この地図はどこで買ったの、黒曜石でできてるねえ。」 カンパネルラ「銀河ステーションでもらったんだ。君もらわなかったの。」 黒曜石の円盤の上に、美しい光で表された星空の地図。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のひとコマです。 子供のころ、家には昭和初期の中等学校の教科書が何冊かありました。 中の一冊に黒曜石の記述があり、まるで囲まれた顕微鏡スケッチ図を見ると、 小さな虫がそれぞれ列をなして進んでいるような、なんとも不思議な模様に見えました。 肉眼では黒褐色透明で何も見えないこの部分に、顕微鏡では微細な結晶が含まれていて、 産地ごとにちがうそのスケッチが重要視されていたことがうかがえます。 70年も前のことで、それだけが記憶に残っていて、黒曜石を見るたびに思い出すのですが、 まだ一度も顕微鏡で見ていません、9月の活動で、その機会があれば、ぜひ見たいと思っています。 実は、夏活動の準備で集まったとき、鹿児島先生に「黒曜石を顕微鏡で見ると不思議な模様があるそうですね」 と聞いてみると、聞いたことはありませんということでした。 なぜ、80年前の教科書に図が載っているのか、調べてみたいと思い、 図書館に行って黒曜石研究の歴史が書かれている本をさがしました。 2004年発行の「黒曜石 3万年の旅」に、日本の石器時代研究の歴史が詳しく述べられ、その中の1ページに、 なつかしい○に囲まれた顕微鏡の図が6つも載っていて、その中には私が子供のころ目にした虫の踊りの行列のような図もありました。 縄文時代から人々に愛用されてきた黒曜石、実は、それよりはるかに古く、 後期旧石器時代(3万年前)から使われていたことが、最近の調査でわかってきたということです。 戦後まもなくのころ、考古学上の大発見といわれる岩宿遺跡の調査により、それまで考えられもしなかった、 日本に縄文時代に先立つ旧石器時代の遺跡が存在することが明らかになりました。 私のいた中学校でも考古学ブームがあって、友人の弟など、鎌倉のよその家を訪れ、「裏庭を掘らせてください」 と頼んでまわったという話も聞きました。藤沢の若尾山古墳(市役所本館のあるところ)では鉄剣も出たということです。 話を戻して、相模原台地(相模原、海老名、大和、藤沢の各市)の遺跡から出土した黒曜石は、長野県和田峠、 伊豆七島の神津島、箱根、伊豆の各地産のものが含まれていることが、わかっています。 その産地の特定方法は、80年も前から行われていた顕微鏡による微細結晶のパターンによる(晶子形態法)から、 最近の「蛍光X線法」までを総合して科学的におこなわれています。 美しい光であらわされた黒曜石の地図、それは未知によせる関心です。 「君もらわなかったの」と、カンパネルラは、団員のあなたに呼びかけています。
引用・参考にした本: 堤隆 2004「黒曜石3万年の旅」 日本放送出版協会
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