茅ヶ崎里山公園は、21世紀になって最初にできた県立公園です。
できた頃は、入り口の広場と長いすべり台の下の広場だけがメインで、まわりには植えたばかりの小さい木があるだけ、
里山とは名ばかりでしたが、10年経った今は、いろいろと里山らしい整備がすすめられています。
科学少年団の10月活動の準備のために見てまわると、見慣れない野草の群落がちょうど花をつけていました。
ホシダという、乾燥しやすい斜面に群落をつくる特性を持つシダが刈り取られた場所の近くでした。
移動中のことで、写真は1枚だけ撮りました。数日後、写真を見て、図鑑で確認すると、キツネノマゴとわかりました。
ごく普通の野草なのですが、私にとっては、初めての経験です。
古代ローマの庭園に植えられていたというアカンサス(ラテン語で「とげ」の意)は、よく西洋庭園で見かけますが、
キツネノマゴ科ということを子どものころから記憶しています。
それなのに、キツネノマゴという日本に昔からある野草には記憶がなく、実物を覚えていないのは、恥ずかしいと思いました。
普通の野草が生えているようなところをさがしても見つかるはずはありません。そしてそのわけも知らなかったのです。
春、いくら野山を歩いても、スミレ(ホンスミレ=マンジュリカ)に会えなくて、むしろ、ひょんな場所で出会うのと同じような理由、
つまり、キツネノマゴは1年草で、スミレの場合と同じく、その種の好む特殊な環境条件の場所に群落をつくるという理由です。
山足部の小さな崩壊をくり返す、しばしば裸地になるような場所を注意深く探すと見つかる確率が高くなります。
しかし、通常の場所では裸地になっても雑草地にしかなりません。
私たちの身近な場所にできる裸地はすべて雑草がいち早く占拠してしまうので、
日本古来の野草の生える余地はまったくといっていいほど失われているのが現実です。
在来の野草の1年草には、ツリフネソウがありますが、その生育地は沢ぞいですし、同じく1年草のコブナグサは、
向陽草原で他の草に混じって生えます。キツネノマゴの生える場所というのは、里山のふちをぬってその先の畑につながる農道で、
山足の小崩壊地を補修して通り、イヌタデなど昔なつかしい植物群落を育ててきたところです。
一方、雑草の1年草はきわめて多種類です。
6月下旬の夏至を過ぎてから除草、裸地化した場所には、春から初夏に生い茂った雑草は1本も生えません。
夏から秋には、畑や住宅地に近い裸地は、ひと雨ふれば、たちまちスベリヒユ、ザクロソウ、イヌタデ、ニシキソウなど、
夏秋型の雑草に覆われます。
このようなわけで、昔から日本にある1年生の野草は身近なところには、今ではほとんど見られません。
以前なら、いたるところで見かけたイヌタデも、今では都市からかなり離れた山間部に出かけてようやく見つかるほど少なくなりました。
湿地性の1年草なら、そういう場所をさがせば、まだ、近くでも見つけることができます。
なお、キツネノマゴ科の外来種で、前にふれたアカンサスは、ハアザミともよばれ、アザミの葉のような模様は、
はるかシルクロードを渡って、古代ローマから奈良の正倉院に伝わっています。
夏秋の頃、S・C苑(江の島植物園)に行けば、アカンサスの雄大な花穂を見ることができます。
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