40年も前のことですが、家近くの大きな空き地の一角に、何本かの月見草(オオマツヨイグサ)が自然に生えて、
夏の夕暮れに大輪の黄花を咲かせました。最近、40年ぶりに、近くの家の生垣の根元に、オオマツヨイグサが咲いているのを見つけました。
夏の終わりのことで、花は咲き終わって、多数の実をつけていましたが、この実の中の種が熟してこぼれたところで、この株は枯れてしまいます。
しかし、そのすぐ近くには、大きなロゼット状の次の世代が控えていて、来年には開花結実の見込みです(12月かたつむり377号)。
してみるとこの大ロゼットは、ここまで育つのに、まるまる1年かかっていると見られるので、この株が開花するのは来年の夏になる、つまり、
オオマツヨイグサは、タネから成長開花してまたタネをつけるのに、まる2年かかっていることがわかります。
ロゼットをつくる植物はたくさんありますが、そのほとんどが、秋から冬の2〜3か月の間に、径数cmから、十数cmのロゼットをつくります。
そして、翌年の春から初夏にかけて開花結実するので、タネからタネまで足かけ2年(まる1年)かかるので「2年草」といいます。
しかし、オオマツヨイグサはタネからタネまで足かけ3年(まる2年)ですから、「3年草」というべきですが、
図鑑には「越年草」とか「2年草」と書かれています。つまり、「足かけ2年草」と「まる2年草」の、二つのタイプが存在するわけです。
花つくりの好きな人の中には、タネから育てる人も多いので、園芸コーナーにはきまってきれいな絵入りの袋が並んでいます。
一袋300円で、30〜300株の花を育てることができますから、一株1円から10円の安さに加え、育てる楽しみも得られます。
秋蒔きのタネから育つ草花は、現在売られているものは必ず次の年の春から夏に花を咲かせますが、半世紀前までは、
開花までに2年かかるものもたくさん売られていました。キキョウ、ナデシコ、ツリガネソウ、タチアオイなど、昔の品種は、
秋に蒔いても次の年には咲きません。前年の秋に大きく育った株だけが、次の年に花を咲かせるのです。
夏花壇に利用されるルドベキアも同じで、昔は春に蒔かないと、次の年に咲きませんでした。
それから数十年の間に品種改良がすすんで、近年では、すべて秋に蒔いて育てれば、必ず次の年に開花するようになりました。
しかし、野草の世界では、もって生まれた性質は全く変わっていないようです。
ヒメジョオンの場合、秋には長い柄のある大きな葉を何枚もつけて、周囲の植物に負けずに充実した株に生長し、翌春には、
一株で万単位の種子を生産する大きな植物体を形成します。ところが、もし仮に、夏の終わりから秋の間に除草が行われると、
オオマツヨイグサやヒメジョオンのような越年草のライフサイクルは、その時点で断ち切られてしまいます。
たとえ、このあと芽生えたとして、裸地という好条件をもってしても、低温期に向かって、そう大きなロゼットをつくることはできません*。
越年して翌年に開花結実する植物を、同化物質の総量から考えて見ると、一個のロゼットは、径数cm〜十数cm、最大で巾1cm、
長さ10cmの葉が15〜6枚として、この植物体が秋から翌春の間に貯えた同化量で、春に花茎を立ち上げて開花結実させるには、
さほど大きな植物体を構成することはできません。充実した果実(もしくは種子)をつくるのは1花で10〜30個、
50〜100個の花が咲くとしても、1個体で500〜3000粒の果実か種子の数を生産する計算になります。
これでは、タンポポのように、草丈が伸びない種類と大して違わないレベルですから、大群落をつくって何十万、何百万と果実、
種子を飛ばさないと、種族の維持はおぼつかないことになりかねません。タンポポならば、多年草ですから、その株は生き残って、
次の年にも実を飛ばすことができますが、ヒメジョオンは開花結実後は枯れてしまいます。
この点、ハルジオンは多年草で、除草後に芽生えたものも、地中の残った根から再生した芽生えからも、育って翌春には花をつけることができます。
近ごろ都会でハルジオンが目立ち、ヒメジョオンが減っているのはこの辺の事情によるものかもしれません。
ちなみに、昔から栽培されているキキョウやナデシコは皆多年草ですから、数株育てれば、しだいに増えて花園をつくることができます。
たとえ1本でもその株は生き残ります。これに対してオオマツヨイグサは2年で枯れておしまいなので、あとが続きません。
あの大きなロゼットをもう1年護ってやらないと種族の維持ができないのです。
藤沢市長久保都市緑化植物園で数株のオオマツヨイグサをプランターで作り続けているのは、こうした事情によるのかも知れません。
* (ナズナは小さなロゼットで越冬し、早春から開花結実を続け、多数の種子をつくります)
|