このレポートは、かたつむりNo.387[2013(平成25)08.24(Sat)]に掲載されました

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美ヶ原の在来植生を復元しています
運営委員 鈴 木 照 治
 
ハクサンフウロ
■ハクサンフウロ
植生復元の看板
■植生復元の看板
放牧中のウシ
■放牧中のウシ
塩くれ場にて
■塩くれ場にて
ノコギリソウ
■ノコギリソウ
ウスユキソウ
■ウスユキソウ
 夏活動で美ヶ原へ来たのは、2000年以来なので、13年ぶりになります。 しばらくぶりに見た美ヶ原の一番の変化は、人出の多さと花の少なさでした。 前に来たときは、私たちのほかの登山者は、ほとんどいませんでしたが、今回は、おおぜいの人が、 普段の服装のまま次から次へと歩いていました。もう一つの大きな違いは、咲いている花がほとんど見られず、 牧場の木の柵と道の間に縄を張ってある特定の場所にハクサンフウロがたくさん咲いているばかりでした。 以前見られたほかの高山植物は、探してようやく見つかる程度で、観光案内にあるような 「高山植物の宝庫」とはあまりにもかけ離れた現場でした。美しの塔への分岐点に看板が立っていて、 「美ヶ原の在来植生を復元しています」として、以前見られたシャジクソウ、ハクサンフウロ、 マツムシソウなどの復元を目標に試験中であることが書かれていました。 先ほど見た縄張りがその試験区だとすぐにわかりました。放牧場には、前よりもはるかに多くのウシが見られました。 柵の中はウシが、道路沿いは人が踏み込むために、花を取らないようにしても、 そうした環境の変化に敏感な高山植物は少なくなり、花を咲かせなくなったのだと想像できます。 しかし、ちょっと縄張りをして、立ち入り禁止区域を設定することによって、限定的ではありますが、 ハクサンフウロがたくさん咲いている場所をつくることができています。団員と待ち合わせる塩くれ場に着きましたが、 なかなかみんなが来ないので、分かれ道とベンチの間に広がる立ち入り禁止の縄張りに沿って歩いてみました。 そこには、何種類かの高原の花が見られました。木も生えていて、本来、 この場所は亜高山性の針葉樹林帯であることがわかります。 100年ほど前、ヨーロッパアルプス高原の方式(夏は高原で放牧、冬は下の村で養う) にならって大規模な放牧場が開かれたのです。訪れる人も、ウシの数も少ない間は、夏中たくさんの花が咲き乱れる、 それは美しい高原の風景が見られたのです。14年前の活動では、遠くの雷鳴にせかされて、 大急ぎで王が頭に行きましたが、頂上近くは満開のニッコウキスゲに覆われていました。 残念ながら、今回は1本もありません。がっかりしてホテルの玄関わきの花壇を見ると、そこには1本だけ咲いていました。 建物の裏に回ると緑色の網に覆われて十本以上のニッコウキスゲの花壇がありました。 無線塔の周りを囲むフェンスの中には、たくさんの高山植物が咲いていました。 「全部、鹿にやられてるんだよ、これは…」と誰かがいいました。柵の中のウシ、道を歩く多数の人、 雪の少ない高原に進出した鹿の三重攻撃にさらされて、大部分を失った高原植生を復元するのは、 難しい面もあるでしょうが、一部分とはいえ成功していることは確かですから、今後に期待しています。 より早い復元のためには、次の三点が鍵になると思います。
@数を増した観光客対策として、木柵と道路の間に幅2mほどの人の踏み込まないベルト地帯を設けること (ウシに近づけるよう、数十mごとに柵まで行ける場所が必要)。
A塩くれ場に近い過放牧状態(ヌカルミ、水溜り、および無植生のガレ場)を解消するため、 ウシを集中させないための方策(数区域に分けてウシを分散させる)。
Bシカの高原への進入を防止する(八嶋湿原では行われています)。
 これが実現すれば、おおぜいの観光客が押し寄せても、花いっぱいの高原がたちまち復活するでしょう。
ホソバノヤマハハコ
■ホソバノヤマハハコ
ノアザミ
■ノアザミ




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