このレポートは、かたつむりNo.390[2013(平成25)11.17(Sun)]に掲載されました

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間違っていた思い込み
運営委員 鈴 木 照 治
 
 9月活動で、教文センターに行ったとき、久しぶりに帰化植物図鑑を開きました。アザミ類の外来種を知るためでしたが、 最近の外来種は載っていませんでした。もう一つ調べようとしたのは、40数年前に、横浜の種苗商で、 「オキザリス・ブラジリエンシス」という名のついた、豆粒ほどの球根3粒300円(当時ラーメン一杯30円)を購入して植えたところ、 温暖化の影響もあってか、どんどん増え、今では、庭中に広がっている植物なのですが、これを調べに図鑑をめくると、 オキザリス・バリアビリス(ふようかたばみ)の図が出ていて、その解説を読むと、花の付き方が一花ずつ地際から出て咲くというので、 これは庭中に広がった種類に相違ないと思いました。それまで、40年間、買ったときの名前を信じてブラジリエンシス(和名ベニカタバミ) だと思い込んでいたのは、正しくはバリアビリスであったということか(40年も間違いのまま気付かずにいたのか)、 これは冷や汗ものだとあせりました。いつも利用している図鑑ですから、もっと早くから調べておけばよかったと思いながら、 撮っておいた開花最盛期の写真をよく調べました。すると、接写した一枚に、葉の高さのあたりで3つに分岐して花をつけているものがあり、 やはりブラジリエンシスに間違いないことがわかりました。それにしてもこれまでずっと、 葉の間から1個ずつ花が出ているとばかり思っていたのが観察の誤りで、本当は、他のカタバミ類と同じく、 花茎の先が数本に分かれて花をつけるのがブラジリエンシス本来の咲き方であることに気がつかなかったのです。 庭中にはびこり、密集しすぎた株は栄養不足で1つの花茎に1つの花しかつけないものが多くなり、 花の咲かない小株ばかりが増えた状態になっていたのです。改めて葉の形を調べると、 小葉の先端がへこんでいるので間違いなくブラジリエンシスと確認できました。 (バリアビリスは、シロツメクサのように小葉の先端は出ています)
 科学の世界でも、長い間、間違った説がそのまま信じられていたことがあります。 9月1日のテレビでやっていた「疲労の原因は、筋肉に乳酸がたまっているからだ」というのが常識とされていたのが、実は、間違いで、 乳酸は活性酸素を減らす働きを持つ、疲れを治すための物質で、休息によって、むしろ増加することが証明されたというのです。 昔から、「先入観にとらわれるな」とよく言われますが、誤って思い込むということも、起こりうるのが人間なのでしょう。 思い込みに頼らず、常に実物をしっかり観察することが大切なのだと思いました。

 身近な雑草のカタバミは史前帰化植物ではないかという見方もあるかと思いますが、同属の在来種ヤマカタバミは、 山地の林下に生えますがめったに見られません。よく見られる外来種のカタバミを次に掲げます。
オキザリス・ブラジリエンシスの眺め(春咲き)
■オキザリス・ブラジリエンシスの眺め(春咲き)
球根で秋冬咲きのハナカタバミ(葉が大きい)
■球根で秋冬咲きのハナカタバミ(葉が大きい)
丈夫で多花性のイモカタバミ(春〜秋咲き)
■丈夫で多花性のイモカタバミ(春〜秋咲き)
身近な雑草のカタバミ(春〜秋咲き1年草)
■身近な雑草のカタバミ(春〜秋咲き1年草)
オキザリス・トリアングラリス
■オキザリス・トリアングラリス
オキザリス・ブラジリエンシスの接写(葉は小、厚い)
■オキザリス・ブラジリエンシスの接写(葉は小、厚い)
冬春咲き暖地に野生するオオキバナカタバミ
■冬春咲き暖地に野生するオオキバナカタバミ
明治以前に外来のムラサキカタバミ(春〜秋咲き)
■明治以前に外来のムラサキカタバミ(春〜秋咲き)
在来種で山地林下のヤマカタバミ(夏咲き多年草)
■在来種で山地林下のヤマカタバミ(夏咲き多年草)




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