このレポートは、かたつむりNo.391[2013(平成25)12.07(Sat)]に掲載されました

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ノコンギクとヤマシロギク
運営委員 鈴 木 照 治
 
庭のヤマシロギクX
■庭のヤマシロギクX
同属代表のシオン
■同属代表のシオン
同属外来種のシロクジャク
■同属外来種のシロクジャク
ヤマシロギク(シロヨメナ)
■ヤマシロギク(シロヨメナ)
ヤマシロギク(シロヨメナ)
■ヤマシロギク(シロヨメナ)
ノコンギク
■ノコンギク
サワシロギク
■サワシロギク
エノシマヨメナ(ノコンギクの海岸型)
■エノシマヨメナ(ノコンギクの海岸型)
 以前、絶滅しそうな野草のムラサキについて書きましたが、その中で、 「なーんだヤマシロギクか」とありふれたヤマシロギクを軽く見るような書き方をしましたが、家の近くのあちこちによく見かけたのは以前のことで、 今では都会から少しはなれた郊外の野山に出かけなければ見られなくなった代表的な野草として、 貴重な存在になりました。このヤマシロギクについて、いくつか疑問をかかえたままに今日に至っています。 二十数年前、珍しいムラサキと間違えて植えたヤマシロギク(かたつむり361号「帰って来たムラサキ」に出てくる)は、 その後毎年花を咲かせますが、普通に野山でよく見かけるものとは、かなりようすが違っているのですが、図鑑にないので調べようがありません。 私たちは、よく山で見かける白い花の野菊をヤマシロギクと呼んでいますが、草丈、葉の形や色合いとも、ノコンギクとほとんど変わらず、 花の色だけが青紫がかっているのを「野紺菊」、白いのは「山白菊」としてきました。 これに対して、丹沢の葛葉川(水無川の支流)沿いの山足林下に生えていた私の家のヤマシロギクのような野菊は、花がやや小ぶりで多数着き、 葉は細長く、葉色は濃緑で、木の下の日陰でよく育ちます。これは、明らかに、日の当たる山道で見かける普通のヤマシロギクとは違います。 近縁の同じ属に、サワシロギクとシラヤマギクがありますが、サワシロギクは少数の大きい花をつけ、花の色が紅紫色に変わること、 シラヤマギクは1m以上に大きくなり、多数の小花をつける別種として図鑑に載っています。 シラヤマギクの葉はヤマシロギクよりずっと大ぶりで、付け根に近いほうが幅広く、矢じり形に見えます。ノコンギク、ヤマシロギク、 サワシロギク、シラヤマギクは、本拠とする生育地が、それぞれ違っているように見られます。 陽光地、山道(林縁部)、山で日の当たる湿地、林内(日陰)です。陽光の適湿地である田の畦には、よく似たヨメナ(別種)が生えます。 これらは見事な「棲み分け」です。箱根のような、もっと高い山地に行くと、タテヤマギクやミヤマヨメナ(庭に植えるミヤコワスレの原種)が見られ、 いずれも別種の近縁種になります。 エノシマヨメナ(ハマコンギク=ノコンギクの海岸型)が江の島で見られる、と前に書きましたが、 江の島に限らずフォッサマグナ植物グループの分布地域の海岸には広く分布しているようです。 ノコンギク、ヤマシロギク2種の母種はノヤマコンギク(ノコンギクはその一品種)といわれ、多くの変異を含み、 ヤマシロギクもノヤマコンギクの一変種とされています。専門家でも分類のむずかしいグループであることがわかります。 先日、図書館で、「新しい植物分類学T、U」2冊を借りて開くと、ノコンギクを含むシオン属(AsterGen.) の系統を遺伝子解析(DNA塩基配列比較法)した研究結果が説明されていて、 従来の分類法ではわからなかった新しい系統分類がわかりやすい形で出ていて、現実の植物の生き様に照らして、興味深いものでした。 ただ、この本には、ヤマシロギクの名前がなく、別名シロヨメナが使われています。 ノコンギクの白花をヤマシロギク(シロヨメナ)というのだと単純に考えていましたが、どうも違うようです。 私が、なんとなく感じていたのは、ノコンギクが日のよく当たる場所、ヤマシロギクのほうがやや日陰になるような場所と、どちらも林縁だが、 生育場所が微妙に違うようで、もう一度よく現場を観察しなければと思っていました。 11月10日、下見のために訪れた天王森泉館の裏手にある観察用花壇に、ヤマシロギク(=シロヨメナ:白花)とノコンギク(青紫花) の2種が並べて植えられていましたが、その場所が落葉樹の下の木陰で、半日陰の林縁になるためか、 白花(ヤマシロギク)のほうがずっと増えて青紫花(ノコンギク)を圧倒していました。もっと日のよく当たる場所にこの2種を並べて植えたら、 ノコンギク(青紫)のほうが優勢になるだろうか、そうなれば、私の観察もより正解に近づいたと思うのですがどうでしょうか。 それから、家の庭のヤマシロギクのような野菊はセンボンギク(青紫花)のような日陰の渓側が生育地なので、 常緑樹の下の完全な日陰に長く住み続けているのだと考えられます。 ヤマシロギク(シロヨメナ)の変異だとは思うのですが、そのあたりは依然なぞのままです。


ノコンギク
■ノコンギク
ミヤコワスレ(ミヤマヨメナの園芸種)
■ミヤコワスレ(ミヤマヨメナの園芸種)


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