ある日の夕食後、テレビで、高原の宿で出す珍しい野菜を、仕入れが高いので、自分で作っているという話題とり上げていました。
キャベツのように大きい葉の、紅い葉柄が食用とのことで、ルバーブというあまり聞かない名前でした。
「ルバーブって何」と家族に聞かれて、よく知らないのに「ロシアで食用にするビートみたいなまずい野菜のことだろ」
とその場をつくろいました。本当は、畑で作っているところを見たわけではありません。
もし、科学少年団の団員から質問をされたときには、もっとわかりやすく、面白そうに答えるようにするのだが、と思いなおして、
すぐ英和辞典を引きました。「rhuberb:大黄」、と出ています。そこで牧野植物図鑑で「ダイオウ」の項を逆引き
(植物名でなく、説明文の中に出てくる名前から引く)すると、ノダイオウ、マダイオウ、カラダイオウの3種のほかにギシギシが出てきました。
手短かにいうと、「ルバーブ」はカラダイオウのことで、「大黄」はギシギシの黄色い根を乾燥した昔からの民間薬のことでした。
ノダイオウも、マダイオウもギシギシに近縁の同属種で、どちらも太く黄色い根をもっている山草です。
ギシギシは雑草に近い野草で、4月活動で水田に行ったとき、小川沿いの太い農道の端に見られました。
アレチギシギシという外来の帰化植物が、路傍や空き地に見られます。カラダイオウは江戸時代に、中国から伝わった食用に栽培される野菜です。
今では、ほとんど栽培されないようですが、最近は、西洋料理に使う外国野菜として再登場するようになり、テレビに出た宿の人も、
やっと種を手に入れたといっていました。「大黄」の名は、平安時代の献上品の目録に出てくるのがもっとも古く、植物名として文献には、
ほとんど登場しません。カラダイオウはシベリア原産で、中国に入ったもので、これがルバーブです。
つまり、英和辞典の「rhuberb:大黄」というのは、意訳というか、大づかみな訳なのです。「rhuberb=イコール大黄」ではないことがわかります。
さて、「大黄」すなわちギシギシの根を干したもの、ということで、それ以来、ギシギシの仲間(Rumex属)の実物を求めて、あちこち探し歩きました。
さいわい、ギシギシなら他の野草とちがって自然の残っている水源近くの小川に沿った野道へ行けば見られます。
しかし、実際に歩いてみると、ギシギシらしいものはあちこちに見られますが、花の咲く初夏にならないと、
この仲間のどれなのか正確にはわかりません。ギシギシ、アレチギシギシ、ノダイオウ、マダイオウは、
いずれも寒さに強い常緑の多年草ですが、冬季の根生葉を見ただけでは、見分けがつきにくいのです。
カラダイオウ(=Rhuberb ルバーブ)なら、葉の特徴から、冬でも見分けがつきますから、どこか栽培しているところはないかと、
ずいぶん探してみました。横浜、川崎、町田、世田谷など郊外で西洋野菜を栽培しているところを訪ねまわって、あるとき、遠くから見て、
ルバーブかと思って近づくと、ビートでした。雑草のアレチギシギシと、ナガバギシギシ(外来でギシギシに近い野草)の越冬型は、
ギシギシに似ています。あちこち見て回りましたが、ぜひ見せたい本物のルバーブには出会えませんでした。
おなじみのスイバも、ギシギシ属ですが、別の系統になります。この仲間の初夏の花や、ルバーブの畑を求めて、これからも歩いてみるつもりです。
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