このレポートは、かたつむりNo.272[2005(平成17)6.12(Sun.)]に掲載されました

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20XX年 町から電球が消える日(3)
運営委員 高 木 茂 行
 
 私が学生だった頃、大学でLEDの授業を受けた。先生は学生に向かって、
「赤や黄色のLEDはできていますが、青いLEDはできないでしょう」
と言った。その時、LEDには興味がなかったから、先生の言葉を素直に受け入れ、 何の疑問も持たなかった。しかし、約20年の時が経過し、 青いLEDは町のあちこちで見られるようになった。
図1@ GaNと基板の並び
図1A サファイア上のGaN
図1B バッファ層の活用
 この青色LEDは2人の日本人、名古屋大学の赤崎教授と日亜化学工業の中村氏(当時)、により作られた。 日本人が世界に誇れる発明だ。2人が青色LEDを作ろうとした時、 ガリウム・ナイトライド(GaN Gaは金属、Nは空気中の窒素)という物質を使えば青い光が出ることは、 すでにわかっていた。しかし、LEDとして光るGaとN(窒素)が交互に規則正しく(結晶状) に並んだGaNを作ることは出来なかった。そこで、結晶の板(基板)の上にGaNの薄い膜を作り、 この膜から青色LEDを作ることが考えられた。ところが、これが最大の問題だった。 GaNが規則正しく並ぶ幅と同じ幅で並ぶ、材料が無かったのだ。
 わかり易くするため、2種類の固めの針金で考えてみよう。 幅の広い間隔の針金(ア)と細い間隔の針金(イ)の2種類が、図1@のように横に並んでいたとする。 (ア)がGaNで、(イ)が基板とすると、当然のことながら(ア)と(イ)はつなげない。 なんとかつなぐには、どうしたら良いのだろう? まず、思いつくのは出来るだけ幅の近い、 (ア)と(イ)を選ぶことだ。そこで、(ア)に近い基板としてサファイア (あの宝石のサファイアと同じだけど、人工のサファイア)が選ばれた。 実際にサファイアの上にGaNを作る実験をしてみると、GaNの膜は部分的にポツポツとゴマ状になり、 一面に広がる膜は出来なかった。図1Aのように少しぐらいなら変形してつながるけど、 長くなるといずれどこかで壊れる。このため、小さな固まりとなってしまった。
 ほかに方法は無いのだろうか?ここで、(ア)と(イ)の幅の中間の幅を持った針金(ウ) を入れたらどうだろう。図1Bのように(ウ)が(ア)と(イ)を橋渡し、 上手くつながるのではないだろうか?いろんな材料といろんな条件を組み合わせ、 やっと基板の上の一面に広がるGaN膜を作るのに成功した。今では、(ウ)はバッファ層と呼ばれている。

図2 携帯電話の液晶画面
図3 白色LEDの読書灯
 こうして青いLEDが登場し、自動販売機の商品表示用などに使われるようになった。 青色LEDの出現により、LEDは赤、緑、青の3種類がそろった。 この3種類の色の3を混ぜるとすべての色が作れる。赤と緑でオレンジや黄色、赤と青で紫、 3色を混ぜると白といった具合だ。白い色が出るLEDは、白色LEDと呼ばれ、急速に使われ始めている。
 例えば、携帯電話はバッテリーで動いているから、一回の充電で長持ちさせるには、 図2のような画面で使う電気の量を減らした方が良い。 LEDの方が同じ光を出すにも少ない電気ですむことから、 最近の携帯電話の画面では電球の代わりに白色LEDが使われている。 また、寝る時に本を読むための図3のような読書灯でも、電球の代わりにLEDが使われている。 LEDにすることで、電池でも長い間使うことができ、持ち運びにも便利だ。
 こうして、LEDは少しづつ電球に置き換わっている。 十年前にカメラといえば、フィルム式が主流だったが、いまではデジカメが主流になっている。 何年もすれば、LEDが電球に置き換わり、この文章のタイトルのように「町から電球が消える」かもしれない。

 さて、ここまでは一般的な話。高木運営委員の反省を最後に。
 もし、大学の時に、先生に「どうして青いLEDはできないのですか?」と質問をしていたら。 あるいは、GaNの膜を作るような実験を学生の時にやったかもしれない。 そうすれば、何らかの形で青色LEDを作ることに携われたかもしれない。 科学では「どうしてだろう」という疑問を持つこと重要だと、青色LEDを見るたびに反省させられる。

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